2010年7月15日にインターネットに掲載された専門家向けオンライン雑誌『Biosensors and Bioelectronics』(Vol. 25、第11号)に、下水から電気を取り出す技術を飛躍的に向上させる方法に関する研究論文が発表された。発表したのは米国オレゴン州立大学工学部と農業科学部の研究者たちであり、この論文には、微生物を利用した電気化学電池の電極に新しいコーティングを施すことにより電池の発電量が20倍も増加し、バイオ廃棄物を浄化すると同時に実用可能なレベルの電気を取り出すことも可能になることが紹介されている。
オレゴン大学の研究者たちは黒鉛電極を金のナノ粒子の層でコーティングすると発電量が20倍増加することを発見した。パラジウムでコーティングしても発電量が増加することは増加するが、金のナノ粒子でコーティングした場合ほど増加しない。しかし、金のナノ粒子ではコストがかかりすぎる。そこで、研究者たちは金よりはるかに安価に入手できる鉄のナノ粒子でコーティングしても、少なくとも一部のバクテリアについては金と同程度の電気を発生させることができるのではないかと考えている。
「これは私たちの目標達成に向けて重要な一歩です。まだ陰極室の設計を改善する必要がありますし、異なる微生物間の相互作用も、もっと理解しなければなりませんが、この新しい方法では、明らかにこれまで以上の電気を発生させることができます」同大学のFrank Chaplen生物・生態工学準教授はそう語っている。
微生物を利用した電気化学電池では、下水などのバイオ廃棄物に含まれるバクテリアを陽極室に入れ、それがバイオフィルムを形成して、栄養素を消費しながら成長する過程で、電子を放出する。つまり、下水を燃料のように利用して電気を生み出すわけであり、これまでエネルギーを消費する技術だった廃水処理を利用可能なエネルギーを生み出す技術に変えることができる。
生物・生態工学助教授のHong Liuを始め、今回の論文をまとめたオレゴン州立大学の研究者たちは、米国におけるこの技術開発のリーダーであり、この研究がうまくいけば、米国内における廃水処理のコストを大幅に削減することができる。また、エネルギーの完全な自給自足も可能になるため、それ相応の電源がないために廃水処理ができずにいる開発途上国の農村部にも、この技術の用途はあるものと見られている。
この技術は、実験室レベルではすでにうまく機能することが確認されているが、実用化するためには、さらにコストを低下させ、効率や電気出力を改善し、材料ももっと安価なものにする必要がある。「ナノマテリアルが構造的にも、電気的にも、化学的にも優れた特性をもっているため、近年のナノファブリケーションの進歩により、効率のよい電極材料を開発できる可能性が見えてきた」今回発表された論文は、そのような見通しを示した上で、「今回の研究によって、ナノ装飾によって微生物電極の性能を大幅に高められる可能性があることが実証された」と述べている。
この研究は、全米科学財団とオレゴン・ナノサイエンス・マイクロテクノロジー研究所の支援を受けて行われている。