2010年9月、世界銀行が2003年水資源戦略の実施状況に関する中間報告書を発表した。この報告書は同戦略を発表してから6年間の同行の活動をまとめたものであり、この間、同行の独立評価機関である独立評価グループ(IEG)から、この戦略は最も水不足が深刻な国を無視しているという批判が起こっていたが、そうした批判にはまったく触れていない。
報告書によると、同行はインフラ支援の継続に重点を置き、2013年6月まで最大の再生可能・低炭素エネルギー源である水力発電への支援を拡大していくのを始め、毎年約60億ドル(約4900億円)の水部門への融資を継続していく計画をスタートさせているが、この計画については、6月に108の市民団体から「大規模な水力発電プロジェクトを支援する世界銀行の姿勢は、結果として貧困を増加させ、社会や環境に回復不能なダメージを与える」という懸念が表明されており、これらの団体から強い反発が起こる可能性が高い。大規模な水力発電プロジェクトは必ずしも最貧層のエネルギー使用の機会を広げるものではなく、温室効果ガスの排出量を増加させ、水争奪戦を激化させ、生態系を破壊する可能性があるというのが、これらの団体の見方である。
報告書は、同行がこれから水部門以外への融資にも水資源対策の要素を盛り込み、気候変動緩和への取り組みを強化していくことも約束しているが、このような姿勢に対しては、国際的なNGOのWaterAidのTimeyin Uwejamomereから、世界銀行の関心が公衆衛生部門へ向いていないことを指摘する声があがっている。
また、農業用水管理の支援を強化していく姿勢も示されているが、この部門でも、現在、同行のグループ機関のひとつである国際金融公社(IFC)がペルーで難問に直面している。IFCがアスパラガスの有力な生産業者Agrokasaを支援したことによって緊張が高まり、4月に同行の職員が狙撃されるという事件が起こったのである。Agrokasaは、ペルーの最貧地域Huancavelicaの農民が依存している帯水層を枯渇させていると非難されており、同社は1999年から2300万ドル(約19億円)の融資を受けてきたが、2009年には新たな融資の申し込みを撤回していた。
6月には、ペルーの地方の地下水利用者団体などの各種団体から、IFCの融資がその基本方針や業績基準に反しているとの訴えが起こされ、IFCの内部監視機関コンプライアンス・アドバイザリー・オンブズマン(CAO)が調査した結果、IFCの方針が適切に適用され、地域住民が適切に保護されているかどうか疑わしいことがわかり、監査を行うことを決定した。この点については、Progressio、Centro Peruano de Estudios Sociales、Water Witness Internationalの3つのNGOが9月に報告書をまとめ、IFCが融資に伴うリスクの評価を怠り、セーフガード措置が機能していないという見方が示されている。
民間企業の水関連プロジェクトへの融資についても、以前からいろいろと批判があり、フィリピンなどでは住民が利用できる水が危機的なレベルまで不足するという事態を招いているが、また東欧におけるVeolia Vodaのプロジェクトに融資を行ったので、激しい批判が起こっている。にもかかわらず、世界銀行はなおも「民間部門への融資の機会を模索する」姿勢を崩していない。