ニュージャージー大学教授がカーボンナノチューブを用いた新しい膜蒸留法を開発

2011年2月23日発行の米国化学会(ACS)の機関誌Applied Materials & Interfacesに、ニュージャージー工科大学(NJIT)化学・環境科学科のSomenath Mitra教授とその研究グループによる「カーボンナノチューブ強化膜蒸留法を用いた水の脱塩」という論文が掲載されている。

従来の脱塩(海水淡水化)法には、加熱蒸留法や逆浸透膜法がある。Mitra教授らが開発したのは、ホローファイバ(中空糸)と呼ばれる管状の膜の中に加熱した塩水を流す「膜蒸留法」という方法である。「腸の構造を考えてみるとよい。腸は、腸壁から栄養分を吸収するが、老廃物は吸収しないようにできている」(Mitra教授)。それと同じ原理で、膜蒸留法では、ホローファイバの壁(膜)から水蒸気だけが吸収され、塩水は吸収されないようになっている。これがうまく機能すると、高温側から低温側へ移動する塩水から発生した水蒸気を蒸留して淡水を取り出し、塩水そのものは腸内の老廃物のようにホローファイバの中を流れ去るようにすることができる。

この膜蒸留法には、いくつかの長所がある。クリーンで無害な技術であり、60~90℃の温度で実行することができる。この温度は、従来の蒸留法で必要とされる温度よりかなり低い。また、従来の逆浸透膜法で求められるような高い圧力も必要とされない。ただし、この膜蒸留法にも問題がないわけではない。コストが高く、正常に、効率よく機能する膜を見つけるのは難しい。「(膜蒸留法にとって)最大の問題になっていたのは、より多くの水蒸気フラックスを透過させ、塩が透過するのは極力少なくすることができる適切な膜を見つけることだった」Mitra教授もそう述べている。

Mitra教授たちが開発した新しい方法では、ホローファイバの壁(膜)の細孔にカーボンナノチューブを固定する。細孔にカーボンナノチューブを詰めると、液体の塩水が細孔に侵入するのを防ぐことができ、結果的に、塩水を加熱して発生した蒸気がホローファイバの膜を透過する比率を高めることができるからである。実験では、20℃程度の低い温度でも従来の膜蒸留法による淡水化と同程度の効率を達成することができ、しかも塩水の流速も6倍ほどに高めることができ、この方法によって淡水化の効率が大幅に改善されることがわかっている。

「残念ながら、これまでの膜蒸留法は、水不足に悩む国や自治体が利用するにはコストが高すぎた。一般に、従来の方法は廃熱を自由に利用することができる工場でしか利用できなかった。これから私たちの新しい方法が普及し、良質できれいな水が、それをほんとうに必要としている人たちの手に広く行き渡ることを願っている……これは画期的な成果であり、それを発表できることを誇りに思っている」Mitra教授はそう述べている。

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