ウィーン大学の研究チームがカーボンナノチューブの受動的サンプリング法を開発

『Environmental Science & Technology』2011年6月23日号に浄水フィルターの材料としてのカーボンナノチューブと汚染物質との相互作用の研究に取り組んでいるウィーン大学環境地球科学部の研究者たちのチームが「受動的サンプリング法」という新しい実験方法を開発したことを伝える論文が掲載されている。

水の汚染物質の中には、カーボンナノチューブときわめて高い親和性を持つものが多く、カーボンナノチューブ製のフィルターを用いると、たとえば活性炭ではなかなか分離することができない水溶性薬物なども汚染水から取り除くことができる。また、カーボンナノチューブは表面積が大きい(たとえば、1g当たり500m2)ので、フィルターが飽和する問題も起こりにくくなり、結果的に汚染物質を保持する能力がきわめて高くなる。「だから、保守の手間や水の汚染除去で発生する廃棄物の量を減らせる」副学部長を務めるThilo Hofmannはそう語っている。

だが、カーボンナノチューブには独特な性質があり、現実の環境下でどのような挙動をするかは、まだよく知られていない。「革新的な技術が人間や環境に及ぼす影響には、つねに好悪両面があるものなので、カーボンナノチューブと汚染物質がどのような相互作用をするかが十分に理解できないことには、フィルターに使うわけにいかない」研究者たちは研究の意図をそう説明している。

彼らは1年以上をかけて新しい実験方法の開発に取り組んできた。これまでの標準的な方法では高い濃度しか扱えなかったので、現実の環境下におけるカーボンナノチューブの挙動を推定するデータが得られなかったが、今回、彼らが開発した「受動的サンプリング法」では、現実の環境下でありがちな濃度のもとでサンプリングを行うことができ、以前よりはるかに信頼性の高いデータが得られる。

最初に開発したのは、発がん性物質の一種、多環式芳香族炭化水素(PAH)との親和性を測定する方法である。オランダのユトレヒト大学の協力を得て、分析化学と電子顕微鏡の手法を用いて実験を繰り返した結果、その手法がカーボンナノチューブについて適していて、信頼できることが確認された。そこで、数種類のPAHについて、さまざまな濃度でカーボンナノチューブと汚染物質との親和性を測定する実験が行われた。

また、彼らは汚染物質同士の競争現象についても研究した。環境中にも、汚染水中にも、通常は多くの化学物質が共存する。だから、汚染物質間で競争現象が起これば、吸着が起こらなくなり、フィルターとしての有効性が低下してしまう。従来の標準的な手法で研究していたときには、3種類のPAHがカーボンナノチューブと共存したときにきわめて強い競争現象が起こることがわかった。だが、「受動的サンプリング法」で、現実の環境に近い濃度で実験をすると、13種類のPAHが共存しても競争現象が起こらないことがわかった。

とはいえ、カーボンナノチューブにはまだまだこれから解明しなければならないところが残されているのだが、Thilo Hofmannは「私たちはこれからもこのテーマの研究を続けていきますし、最近の実験結果も近いうちに国際的な会議で発表することになっています」と語っている。