Siemensは、シンガポールで稼働中の海水淡水化パイロット・プラントで、エネルギー使用量を従来の逆浸透(RO)法よりも50%以上削減することに成功した。このプラントは1日に50立方メートルの造水能力があり、造水量1立方メートルあたりの消費電力量はわずか1.5キロワット時にすぎない。現在、一般に使われている淡水化技術のなかで最もエネルギー効率のよいのはRO法であるが、そのRO法でもこのパイロット・プラントに比べると2倍以上のエネルギーを消費する。Siemensの広報誌Pictures of the Futureによると、このプラントが採用している新しい技術では、電場を利用して海水から塩分を取り除いている。Siemensはこの技術による実証プラントを、2012年半ばまでにシンガポール、アメリカ、およびカリブに建設することにしている。
水問題の専門家らは、世界の水の消費量が向こう15年間で40%増加すると見ている。砂漠の国や、シンガポールなどの小さな国では、淡水資源がきわめて少ないため、海水淡水化による造水量は増えつづけているが、多くの場合、エネルギーを大量に消費する蒸留法が依然として使われている。蒸留法では、1立方メートルの海水を蒸気にするのに約10キロワット時の電力量が必要となる。これに対し、海水に圧力をかけてフィルターを通すRO法では、同じ1立方メートルの海水を淡水化するのに要する電力量は約4キロワット時まで下げることができる。
電気透析と連続電気脱イオン:
Siemensの新しい省エネ型海水淡水化システムは電気透析法を採用している。これは、水から陽イオンと陰イオンを電場によって取り除く方法である。陽イオンのみを通す膜と陰イオンのみを通す膜とを交互に並べた水槽に外側から電圧をかけることにより、ブラインが集まるチャネルと淡水化された水が集まるチャネルとができるというのがこの方法の原理だが、塩の濃度が下がるにつれて水の電気抵抗が増し、効率がわるくなるという難点がある。そこで登場するのが連続電気脱イオン(CEDI)システムで、これは、水に含まれる最後のわずかな塩分を取り除くのに用いられる。このシステムでは、膜と膜のあいだに置かれたイオン交換樹脂がイオンを捕捉して水から除去する。
Siemens Corporate Technologiesの専門技術者らは現在、このプロセスをさらに改良するためのシミュレーション・モデルに取り組んでいる。ドイツ教育・研究省の支援をうけたプロジェクトの一環として、Siemensの研究者らはこのプロセスを分子レベルでシミュレートすることにしている。このシミュレーション・モデルは、イオンの膜透過のようすや、電場内での水流の力学をさらに理解するのに役立つものと期待されている。
Siemensはこの新しい淡水化技術を、水処理システムの研究センターであるSingapore WaterHubで開発した。この技術はSiemensがEnvironmental Portfolioと称している製品・ソリューション系列に属している。2010年度、Siemensはこの系列の製品・ソリューションで約280億ユーロ(約3兆1000億円)を売り上げた。