特集(2012年2月号) – 米国における水市場でのM&A-最近の動向(2009~2011年)――環境エンジニアリング&水市場分野でのM&A動向

下記の情報は、EnviX社が長年協力関係にある米国の環境市場及び環境ビジネス分野の調査分析会社Environmental Business International Inc. (EBI; San Diego, USA)から得た情報をベースに、弊社が収集した最新情報を統合、分析して作成したものである。

最近のM&Aの特徴と流れ

(1) ニューヨークに拠点を置くEnvironmental Financial Consulting Group(EFCG; New York)の統計データによれば、環境関連産業分野でのM&A活動は2002年以降増加の一途をたどっていたが2008年9月のリーマンショックの影響を受けて2009年に落ち込んだ。しかし、2010年にはすでに回復基調となり2011年の前半の活発な動きから見ても2011年全体でさらに増加する見通しである。

(2) 環境分野ではC&E(Consulting & Engineering)分野でのM&Aが特に活発化している。

(3) 2010年以降、買手が再び獲得に乗出し、売手が売却の好機と捉えている。
その背景と要因-C&E分野におけるM&Aを加速する3大要因:

  1. 大量のキャッシュの存在:C&E分野だけでも40億ドルのキャッシュが存在。
    • 収益性が向上しながらも、企業独自の成長(売上げ)が緩慢であることから(M&A)に利用可能なキャッシュが増加。
  2. 経済不況から脱出しようとしても独自ではなかなか成長の糸口がつかめていない
    • -景気が低迷する中で他のM&Aにより多角化を進め産業分野や市場に新規参入してゆこうとの意欲が高まっている。
  3. 経済成長を続ける地域における特定の市場でのさらなる契約獲得を目指すため
    • 環境や社会インフラプロジェクトが自動車や化学メーカーなど多国籍企業の高まる要求に応えるものとなるためには、C&E企業が海外での対応を一層強いられている。後述のCDM社はその典型。
    • いまや米国内には世界で最大級のプロジェクトやきわめて興味を抱かせる清新なプロジェクトも存在していない。それらは、アジア、南米、中東そしてヨーロッパに存在している。

(4) 中規模の上下水道企業が世界の大規模で極めて魅力的なプロジェクトを獲得するために競合他社に伍してゆこうとするならば、大規模な企業(C&E企業)に自らを売却することを検討するだろう。
これらの中規模企業が売却を決する背景には、

  • 十分な資金が無いこと、
  • 海外に拠点や対応できる人材が不足していること、
  • 海外での経験が乏しいこと、
  • 自らの現状に凝り固まり事業を拡大展開するための高い経営能力に欠けること、などが存在している。

(5) 最近M&A活動の活発な環境セグメント(EFCG)

  1. Consulting and Engineering (C&E) Firms
  2. 水関連企業
  3. Engineering and Technology Firms

現在、日本の水関連企業が海外水市場でのプレゼンスを拡大・増強する上で、C&E企業の効果的な買収が鍵となる(決して水専業のエンジニアリング会社である必要は無い;むしろ周辺分野に強いエンジニアリング会社が好ましいのではないか)。特に大型の水関連プラントのプライムとなるためには総合力のあるプラント・エンジニアリング会社としての準備態勢が必要。これは、世界的な傾向でもある。(EnviXコメント)

(6) C&E分野での明確なM&A回復基調(EFCG; New York)

  • 2007年[67社185件]/2008年[58社180件]/2009年[51社131件]
  • 2010年[64社152件]、2011年予想[80社180件]

2010年10月開催のC&E企業CEO会議の席上での80社の役員による回答による。

(7) C&E分野でのM&Aの傾向(2011年以降)(EFCG)

  • 全体としてM&Aの対象となる企業として小規模な会社が増えてきている。
    • 大企業はその豊かなキャッシュ・フローでより規模の大きい買収を企てる
    • 年間売り上げ5000万~3億ドルの中規模の企業は、プロジェクトの入札競争などで大企業と競り合うためには(急)成長しなければならないというプレッシャーに直面してきている。
    • 多くの中規模の企業が買収しつくされれば、今度はそれよりも規模の小さな企業がM&Aの対象になってゆくだろう。
    • こうした流れに従えば、年商10億ドルを超える規模の大きな企業はC&E産業全体の売上げの中でより大きなシェアを獲得し、その一方で、新たに比較的小さな企業が中規模の企業へと成長し、その結果、今後も買収の対象となる中規模の企業が安定して生まれてくる構図が予想される。(EFCG)
  • 買収に応じない企業の特徴:
    • 高品質のサービスを提供し、従業員が株を所有している中規模の企業は売却しようとしていない。
    • こうした優良な中堅企業は絶えず大企業から買収の話を持ちかけられるが断っている。
    • 社員が自社株を所有する企業は売却よりもその持ち株制度を維持することを社是としており、売却による大きな利益が舞い込むとしても影響されていない。
  • 例外的に大きいM&Aは(2011年1月以降)
    1. AMEC plc(London, UK):MACTEC(ジョージア州,USA)従業員2800名、買収金額2億8000万ドル(キャッシュ)、5月18日に合意に達したと発表。
    2. CDM(Cambridge, MA):Wilbur Smith Associates(輸送分野;Columbia, South Carolina, USA、従業員1,200名、海外117カ国に拠点を有する)
      CDMの創立は1947年、法人化は1970年。従業員数約6,000名(2011年)、世界に約120箇所の拠点を有する。年間売上高7億2000万ドル(2009年);うち1億ドルが海外売上分。海外市場戦略の強化に向かう。
      Services – CDM offers full services—consulting, engineering, construction, and operations—across the project life cycle in water, environment, transportation, energy, and facilities.
    3. CDM:E3(オーストラリアの総合エンジニアリング会社)買収。2011年8月31日買収手続き完了。E3 Consult社は水源管理などもカバー、詳細不明。

Notable C&E Transactions: January 2011 to April 2011

Acquirer Target Employees Key Markets
CDM Wilbur Smith Associates 1,200 Transportation
AMEC BCI Engineers & Scientists 200 Water and Mining Engineering
Tetra Tech Fransen Engineering 180 Oil Sands Industrial Engineering
Pennoni Associates Patton Harris Rust & Associates 175 Civil, Utility, Telecommunications Engineering; Surveying; Planning
URS BP Barber 150 Water/Wastewater
Terracon Nodarse Associates 150 Environmental Consulting and Geotechnical Engineering
HDR HydroQual 125 Water Resources
Golder Associates Marston 84 Mine Planning & Geologic Services
Shaw Group Coastal Planning & Engineering 75 Coastal Modeling and Marine Biology and Geology

Source: Rusk O’brien Gido + Partners

(8) 海外企業による米国企業買収の増加傾向:

米国企業は海外の企業を買収しようとしているが、その一方で、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアなど海外の企業が米国市場に入ってきて買収を進める傾向が見られる。

[例]

  1. AMEC(UK)-MACTEC(2011年)
  2. AEA Technology Group plc(UK)-Eastern Research(2010年末)
  3. Cardno Ltd.(Australia)-ENTRIX, Environmental Resolutions,Inc., JFNew
  4. WS Atkins plc(UK)-PBS&J Corp.
  5. Stantec(Canada)-many US firms ; ECO:LOGIC Engineering, Natural Resources Consulting, Inc., WilsonMiller, Inc., Jacques Whitford, etc.

StantecのM&Aの歴史と戦略:

最近、米国内で積極的なM&Aを展開し水ビジネス分野で確固たる地位を気付きあげているStantec社に焦点を当て、そのM&A戦略の推進役である同社のJeff Lloyd副社長の談を交えて下記に紹介する(EBI)

本社をカナダ・アルバータ州のエドモントン市に置く。環境インフラ分野のC&E企業であり、1954年創立で、現在の従業員数は約11,000人で売上高は15億ドル(2010年;約1200億円)。米国の設計会社ではトップ10以内にランクイン。

1976年以降から2011年4月までの間に50社に及ぶ企業買収を行い、2011年に入ってからもQuadra Tech Inc.社とThe CalTech Group社の2社を買収している。この30数年の間に毎年20%の成長を遂げ、従業員数は1000名から1万に増え1万1000人に達している。

1980年代後半まではStantec社は、アルバータ州を活動の中心とした上下水道の設計に係わる専門の会社であった。経済不況により苦境に陥ったStantec社は、業種を様々な分野にしかも地域的にも拡大し、これは公共部門と民間部門の両方で進めてきた。この厳しい時期のM&Aを通じた周辺分野への事業拡大が最近の経済不況の中にあっても収益を保てるベースとなっている。

主な事業分野は現在、環境サービス、建設工事、産業向けサービス、輸送、都市設計/土地利用の5つの分野であるが、それらのうち「環境サービス」がもっとも大きく2010年の売上げの40~50%を占めている。顧客の分布もいまや民間セクターが売上げ全体の3分の2を占めており、それに続くのは、地方自治体、州政府、連邦政府そして研究組織の順である。

環境サービスの内容:水源管理、水道の供給、貯水事業、工場跡地再開発、環境コンプライアンス、

現在の目標:Stantec社の成長戦略はさらに高められ、「進出した地域市場でトップ3の一角をなす」を目標にしている。トップ3に入れば大きな複雑なプロジェクトをとることができるからだ。こうして一定の地域市場でトップ3になることで一定期間に当該地域に存在する企業の買収が容易になり成功してきた。やたらと欲をかいて広い地域を対象にバッタ買いしてはだめである。

海外での拡大:現在すでに北米の全域をカバーし、2010年はイギリス、UAE及びインドでの企業買収に成功している。英国はAnshen + Allen社(従業員200名強)の買収で、UAEとインドはBurt Hill Inc社の買収によって足場を築いた。いずれの買収企業も、米国と海外に拠点を持っていた。

Stantec社飛躍の大型買収:最近3年間の主な買収事例(1600名以上の増加)

  1. ECO:LOGIC Engineering (Rocklin, CA): 水資源管理関連のC&E
  2. Natural Resources Consulting, Inc (Cottage Grove, WI):環境C&E
  3. WilsonMiller, Inc(Naples, FL):多分野での計画、設計及びエンジニアリング
  4. Jacues Whitford(Dartmouth, Nova Scotia):環境管理、汚染サイト修復、地質エンジニアリング

Stantec社の買収企業選定の基準:

  1. 第1の基準:企業文化の適合性。経営トップ同士が話し合いをしてみて快く感じることと、買収先企業の経営陣の優先事項とを併せて判断する。
  2. 第2の基準:次に収益性が見込めるかどうかである。この場合、買収先企業のトップ・プライオリティーがなんとしても全社員を保持したいというなら、買収は成立しないこともある。
  3. その他の基準:現在の市場に適った企業を経営し、手がけた事業ができるだけ長期に亘って持続するよう経営する必要があり、そうした観点から優れたビジネス感覚や眼識を備えた経営陣を探している。

Stantec社が求める買収対象企業:

  1. 企業オーナーが出口戦略を探している会社(自ら経営から去ろうとしている)
  2. 更なる成長を目指しているが自力では成しえない企業
  3. 上記の2つの動機を有する企業
  4. 成長を目指すも出口戦略を持たない企業:ひたすら成長を求めている企業を探し出すことはきわめて難しいが、こうした企業は売却するという出口戦略を持たないので、交渉に当たっては一層強気で臨んでくる、そしてその結果買収金額は多少高いものになりがちである。しかし、この種の企業は将来的にはリーダーとなりうる強力な候補といえる。過去数年間の経験から、買収した企業の3分の1はこの種の企業であり、売却先との交渉を巧みに展開しながらも自らは辞めようとはしない経営陣のいる企業である。

買収後の「自律性」の扱い ⇒ Stantec社は自立性を与えず完全な統合化を目指す

Stantec社は、買収した企業に対して買収後に一定レベルの「自律性」を与える企業ではない。買収企業の良さとStantec社の良さを完全に統合化して顧客に付加価値のあるサービスを提供することがStantec社の方法だ。ニッチな技術を取り込んで、それをもってStantec社は新たな分野に展開することができる。

1つや2つの買収企業にある程度の自律性を与えることは可能だが、多くの企業を買収しているStantec社の場合、これら何十もの買収企業に自律性を与えれば管理不能になる。

Most Active Acquirors in Consulting & Engineering in the Past Eight Years

# of Acquisitions
Stantec 27
ARCADIS 27
Tetra Tech 24
AECOM* 23
SNC-Lavallin 23
Increase in Gross Revenue
Stantec 417%
AECOM* 275%
URS 267%
ARCADIS 257%
Tetra Tech 128%

Source: Environmental Financial Consulting Group; Publicly traded firms over the last 8 years; * Since going public in 2007

バイヤー(買手)の視点

下記は米国マサチューセッツ州に拠点を置くコンサルティング会社「Rusk O’Brien Gido + Partners」が、環境市場でのM&Aにおけるバイヤーの立場から見た戦略上の視点を示したものである。

  • 環境関連企業は、企業の経営戦略上の買収の対象としてだけでなくプライベート・エクイティー(PE)企業の投資対象として一層注目されている。
    その背景は、環境産業が安定した成長を見込めること、規制の強化に止む無く対応しなければならない企業への効率的な対策を提供する機会が増すこと、などがある。
  • 設計・建設そして総合力(integrated project delivery)に対する要求の高まりに応え、自らの弱点を補完する対象を模索
  • 自社独自の成長性が鈍化していることに対する焦りなども買収の動機に。買収を成長の突破口にしたいと考えている。
  • 様々な分野を手がけている企業よりも、特定のニッチ市場に注力して経営状態が良好な企業を求めている。やたら方向転換したり、売上げに必死になったり、経営に行き詰まっている企業は対象外となる。
  • 魅力的な市場セグメントは:
    ①石油&ガス、②電力とエネルギー、③配電&送信、④再生可能エネルギー、⑤環境コンプライアンス事業、⑥持続可能性とグリーン設計、⑦大気浄化と水関連サービス
  • 要は、バイヤーは自らが弱いニッチ市場で優れた企業を探している。

Size of C&E Firms Acquired in Last 12 months through April ‘11
Greater than 500 employees     ― 18社、 9%
Between 50 and 500 employees ― 53社、 28%
Less than 50 employees    ― 121社、 63%

C&E Firms Acquired in 2009-2011
2009年: 59社(1-4月累計)、156社(年間合計)
2010年: 55社(1-4月累計)、196社(年間合計)
2011年: 74社(1-4月累計)、225社(予想:年間合計)
Source: Rusk O’Brien Gido + Partners

水分野でのM&A動向:

下記は、コロラド州Boulder市に拠点を置く投資戦略分析を得意とし水市場と環境ラボ分野のM&Aに精通しているコンサルティング会社「TechKNOWLEDGEy Strategic Group」による分析レポートからの抜粋である。

環境分野ではC&E分野ほどではないが、企業による戦略的買収やPEによる投資の対象になっているのは、「水管理」「廃棄物管理(処理処分)」の分野で資源の効率的運用技術サービスを提供できる企業、及び「環境ラボラトリー(テスト試験所)」である。

主な牽引ファクター:

  1. 環境規制強化:経済的変動に影響されない安定的ファクター
  2. 資源の効率的運用サービスの提供:不況下にある企業にとって費用削減効果をもたらす
  3. そしてともかくM&A用資金が豊富にあること。

水市場でのM&Aの最新動向

  1. Pentair, Inc.: 2011年4月に買収合意を発表
    英国PE企業Doughty Hanson社から、オランダに本拠を置くNorit社の事業会社Clean Process Technologies(CPT)を買収。約7億500万ドル及び借入金の肩代わり。
    企業価値を表わすEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前利益)の14倍もの高額を支払ったとPentair幹部は語る。
    PentairのCPT買収の狙いは、

    1. 中国、ラテンアメリカ、及び中東での濾過関連事業の強化
    2. 淡水化、水の再利用、及び工業廃水処理の市場への参入・拡大
  2. Thermo Fisher Scientific(Waltham, MA)-Dionex Corp.(Sunnyvale, CA)水試験サービス。Thermo FisherはEBITDAの18倍の価格で買収したという。
  3. 世界的水メジャーもM&A活動を活発化させる気配を示しており候補企業を物色中にあると見られている。
    GE Water, Siemens, Veolia Water, Danaher, Ovivo(GLV)
  4. Heckman Corp.(Palm Desert, CA: 元US Filter経営者Heckmanが設立):
    シェールガスの探索・生産に伴う水処理処分サービス分野で廃水輸送企業などの買収工作を進めている。
  5. YSI, Inc.(Yellow Springs, OH):
    売り上げ100億円規模の水質監視試験装置メーカーで、2011年3月に更なる成長を目指すために戦略的パートナーを求めていることを公表。

特に水分野のC&E企業の買収の動き:

  1. 最近の買収はARCADIS(Denver, CO)による2009年のMalcom Pirnie買収。
    これは、水分野のエンジニアリングエンジニアリング能力を大きく強化することを主な目的として大きな企業によって買収されたここ数年では最新の買収であった。
    ARCADIS社:2010年現在、売上げ約2200億円、従業員16,000名、東欧を含め世界を広くカバーし、水分野(20%)を含む総合C&E企業。
  2. その他、最近、水分野のエンジニアリング企業を買収して成功を収めた中規模のC&E企業として次のものがある。いずれも株式を公開していない。
    • Brown & Caldwell(環境分野専業では米国で最大のC&E企業、米国全域をカバー:CA)
    • Carollo Engineers(水分野専業のC&E企業、米12州に32オフィス、米中心:Walnut Creek, CA)
    • Greeley & Hansen(水分野専門のC&E企業、全米16オフィス、300名;シカゴ, IL)
    • Hazen & Sawyer (水分野専業のC&E企業、全米+南米;NewYork City,NY)
  3. 水分野のエンジニアリング事業を強化しようとする企業に対する提言TechKNOWLEDGEy Strategic Group):
    • 狭い分野の水事業に強みを持つ比較的小さな企業や、特定の地域に強みを持つ企業に焦点を当てて買収を進めるべき
    • こうした小さな買収を忍耐強く積み上げてゆく覚悟が必要である。
    • 買収交渉では安く買い叩こうとするのではなく、(競合他社に対して)最高額を提示する用意が必要。

優れた買収戦略で注目すべき中堅企業: Kleinfelder Group, Inc.San Diego, CA

2011年4月現在、約2000名の従業員を擁する広範囲の環境インフラ・エンジニアリング会社。全米67箇所のオフィスを有するほかに、グアムやオーストラリアにも海外拠点を有する。従業員が自社株を所有する非上場の民間企業。2011年の売上高約300億円。

クライアント(自治体や大手企業)は、業者リスト(vendor lists)から余計な業者を削除し、より大きな総合的な力の在るエンジニアリング会社に一括して任せたいと考えており、その一方で、多くの中規模企業は、買収の成果を自らの成長戦略に組入れて競争力の維持向上を図ろうとしている。

Kleinfelder Group社の戦略とM&A担当役員のKevin Pottmeyer氏は語る

  • 競争力を維持することは第一の戦略上の目標だ。
  • 規模を拡大すればするほどに、シェア拡大につながり、市場競争に食らいついてゆける。
  • 当社は社員が自社株を有する民間企業で規模も業界ではほどほどのレベルにあるが、それを維持してゆきたい。
  • (買収を通して)成長をすることで現在トップの企業に少しでも近づいてゆけるし、トップ企業の仲間でいられることで、その恩恵に浴することもできる。
  • 当社は買収を通して成長を続けながら、従業員の持ち株制度や1社による一括受注ビジネスモデルを保持し、競争に打ち勝つための「一貫開発納品モデル」を維持し、そして「我々は、迅速で、効率的で生産的なサービスを提供できる」ことなどを目指している。
  • 当社が買収の対象とする企業は、上記の当社の目的に適い、同時に重要な技術力を有する企業である。

EnviXコメント

上述した米国でのM&Aの展開はすべてがうまくいっているわけではないが、そうしたM&Aを通して産業界は新陳代謝を繰り返し、競争市場で生き残ってきたAECOM社やPentair社、そしてStantec社などは、多くの企業を買収しながらも「研ぎ澄まされた固有の企業理念」を固持し、しかもその理念が拡大強化されていることに感嘆せざるを得ない。

その一方で、海外展開する日本企業には、過去の組織的因習やビジネス慣習に依然囚われていたり、また自社の優れた諸資源の戦略展開が不徹底のままで混迷している企業も存在するが、それらを克服しながら戦略的なM&Aを展開しつつある日本企業は、上述したM&A戦略に優れた欧米企業の戦略を十分分析して自社独自の海外戦略展開に生かしていただきたい。

下記は、最近の国内の動きに照らしてみるとき、依然として旧来の戦略に溺れ、自社独自の戦略性に欠ける日本企業の脆弱性が改めて浮き彫りにされていると思われ、コメントを付したものである。

戦略的な合併や提携を!

LGと日立プラントテクノロジーとの提携
日立製作所と三菱重工業との統合化

2011年の紙面をにぎわしたこれらのニュース。一見、これで日本企業が世界のインフラ市場や水市場でトップクラスのプレーヤーになれるかとの錯覚に、多くの人々は陥ってしまうだろう。しかし、自らの足元に存在している問題点をさらけ出して改善し、新たな戦略を実施しない限り、競争力は培えず、成長は見込めない。

一方で、自らの特長を最大限生かした大きな相乗効果の見込めるM&Aの展開と、そのM&Aの十分な成果を引き出せうる国際ビジネスや相手方国のビジネスに精通したマネジメントスタッフの育成が、同時に急務となっている。そして、それらの戦略を支える企業グループ全体をまとめうる基本的な企業戦略スキームが策定されグループ内に浸透していることも不可欠なものである。水事業は、下水処理施設一つでも、水処理会社1社では立ち行かない、グループ企業の総力を効果的に結集してこそ競争に勝てる総合ビジネスであることを十分認識しておく必要があるからだ。

German Water Partnershipや「チーム水・日本」、場合によっては自治体の海外水ビジネス展開大企業同士の提携・JVなどの動きは、“パッチワーク的な総合力”で競合相手に勝ろうとするものになりがちで、そこには

  1. AECOMなどに見られる独自で開拓した総合力、
  2. 会社に根付いた企業の精神風土(企業家精神)、そして
  3. サービスを提供する海外の地域や国に住んでいる人々との共同作業による相手先との達成感の共有、

などが存在していない、あるいは大きく欠けている。
単に「売ること」「儲けること」「雇用を拡大すること」を性急に求める現在のドイツや日本の水ビジネスの進め方では、競合性の増す国際市場で次の壁に直面するだろう。
すなわち、

  • 社員やスタッフのモチベーションを絶えず高めうる「ミッション」が不在
  • 相手の国や地域の住民やコミュニティとの共感と持続的な人的関係が欠如あるいは希薄なことから、競合相手にすぐに奪い返されてしまう。

基本的人権の構成要素をなす“水”のビジネスは、その地域的特性に大きな影響を受ける。事業実施においては、相手の国や地域の住民やコミュニティとの連携と持続的な人的関係が不可欠であり、利害を超えた信頼関係が成功のカギを握る。日本の水ビジネス企業は、このことを再考し、海外水ビジネスに取り組む必要があるのではないだろうか。

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