世界の人口増と、それにともなう淡水需要の増大が、地球の海面を押し上げている。その海面上昇の速度は、温暖化による氷河融解がもたらす海面上昇の速度より大きい。こうした研究成果が2012年5月20日、Nature Geoscience誌のオンライン版に公表された。
これは、東京大学のYadu N. Pokhrelらによる研究で、公表された研究論文によると、淡水需要の増大にともなって大量に汲み上げられた地下水が、最終的には海に流れ込み、海面上昇をもたらすという。この海面上昇は、人工の貯水池等が大量の水を陸地にとどめておくことがなければ、いまよりさらに速くなっていたはずだと論文は述べている。以下はこの論文の概要である。
氷の融解や海水の熱膨張よりはるかに大きな海面上昇効果:
この研究では、地下水の汲み上げによる海面上昇効果に貯水池等による抑制効果を加味したものを、地球温暖化による氷の融解や海水の熱膨張の海面上昇効果と比較している。それによると、地下水の汲み上げは、地球の二大氷帽であるグリーンランドと南極大陸の氷の融解の5倍のペースで、また、その他のすべての氷河を含む氷の融解や、海水の熱膨張の2倍のペースで進行している。
地下水の使用は持続不可能なほどのスケールでおこなわれており、この50年間で18兆トンの水が地下の帯水層から汲み上げられたが、その補充はなされていない。世界のいくつかの地域では、水は底をついてきている。たとえばサウジアラビアは、かつては地下深くの化石帯水層から汲み上げた水を使って砂漠を潤し、小麦を自給自足していた。しかし現在では、多くの帯水層が枯渇し、小麦はほとんど輸入に頼っており、国内での小麦生産は2016年には終わりを告げると見られている。また、インド北部では地下水面が毎年4センチのペースで下がりつづけている。
長期的には氷床や氷河の融解の影響のほうが大きいとの意見も:
この論文に対し、ブリストル大学のJonathan Bamber教授は、たしかに大量の地下水を海に流し込んでいることは海面上昇の大きな要因にはちがいないが、世界の人口が2倍以上になったこの50年間にそうした要因による海面上昇が加速したようすがないことを指摘している。同教授は、氷床や氷河の融解がこの20年間に加速していることを挙げ、将来は氷の融解が海面上昇の主たる原因になることは明らかだとの見かたを示している。