米国MITの研究者、RO膜をはるかにしのぐ水透過性を持つ脱塩膜の可能性を確認

2012年6月22日、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の材料科学者たちが新しい塩水脱塩膜に関する研究論文をNano Lettersに発表した(下記URL参照)。現在最も有力な脱塩技術は逆浸透(RO)法だが、David Cohen-TanugiとJeffrey C. Grossmanが発表した論文では、その代わりに単層ナノ多孔性グラフェンの膜を使用してシミュレーションを行い、RO膜より桁違いに速く水中の塩分を濾し取れることを示している。
http://phys.org/news/2012-06-nanoporous-graphene-outperform-commercial-desalination.html

脱塩材料としてナノ多孔性材料の使用が検討されたのは、これが初めてではない。RO膜も多孔性だが、それを通して(塩分を除去しながら)水の分子を押し出すには高い圧力が要求される。それに対して、ナノ多孔性材料なら、それほど大きな圧力をかけなくても水の流路が確保できるのでRO膜より高速で水中の塩分を濾し取ることができる。ただし、ナノ多孔性材料の中でもナノ多孔性グラフェンの可能性が検討されたのは初めてであり、Grossmanらが考えた単層グラフェンは、炭素原子1個分の厚みしかなく、究極の薄膜と言え、膜を透過する水流はその厚さに反比例するので、さらに好適と言える。

Grossmanらは、標準的な分子動力学シミュレーション法を用いて細孔の径(1.5~62Å2)や化学的性質の異なるナノ多孔性グラフェン膜の水透過性を調べた。そしてその際、そのナノ細孔を取り巻く炭素原子を水素原子または水酸基で保護して強化することにした。保護しておかないと、現実の実験条件では、細孔を取り巻く炭素原子の反応性が高いので、化学的機能化が起こる可能性がある。これはある程度制御可能なので、細孔の縁を疎水性にする場合と親水性にする場合を想定し、シミュレーションで平均的な海水の2倍の塩分濃度(72 g/L)の塩水を流し、ナノ多孔性グラフェンの細孔の径を変えながら、水の透過性を比較した。

その結果、グラフェンを水酸化した場合に水の透過性が大幅に高まることがわかった。これは、水酸基の親水性によるものと考えられた。水素化した細孔は疎水性なので、高次構造の数が限られた環境下でなければ水分子は流れないが、親水性基の場合には、細孔内により多くの水素結合が存在することが可能になるので、抵抗が少なくなり、それだけ水の流れが増加する。

全体として、ナノ多孔性グラフェンは理論上、RO膜よりはるかに水透過性がよいことが示された。単位圧力のもとでの1日当たりの単位面積を通した水の透過量を比較すると、高フラックスRO膜の場合には1リットルに満たないが、ナノ多孔性グラフェンの場合には、塩分を完全に除去する構造(孔径は水素化する場合で23.1Å2、水酸化する場合で16.3Å2)で39~66リットルになるという結果が出た。

Grossmanらによると、このナノ多孔性グラフェンを脱塩に応用するには克服しなければならない課題がふたつあるという。ひとつは、孔径のばらつきを小さくすることだが、高次構造の多孔性グラフェンの合成技術は急速に進歩しているので、これはまもなく実現可能になるという。もうひとつは、圧力がかかったときに機械的な安定性を維持することであり、これもRO材料に使用されているような薄膜支持層を用いれば可能だという。「私たちは現在、実験的にナノ多孔性膜を製造しているところであり、数カ月以内にその性能をテストすることができるでしょう」Grossmanはそう語っている。

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