シンガポールのNgee Ann Polytechnic(中国語名:義安理工学院)の研究グループが、ナノファイバーを用いた膜蒸留による淡水化システムを開発した。Distilと名づけられたこのシステムは、1時間に200リットル、日量にして5000リットルを超える造水能力がある。
ナノファーバーを用いたものとしては初の膜蒸留による淡水化
ほとんどの膜蒸留システムは水の移動をベースにしており、得られる水の純度に問題があった。しかし、ナノファーバーを用いた膜は、この問題を解消してくれる。撥水性、ないしは疎水性を特徴とするこの膜は、純粋な水蒸気のみを透過させる。
研究グループはすでに、このシステムでふたつの特許を取得している。ひとつは膜の新規性に対する特許、もうひとつはこの技術のきわめて効率の高いプロセスに対する特許である。
低エネルギーと高い水回収率
Gurdev Singh博士を中心に、Antony PrinceやT. S. Shanmugasundarumといった研究者、それに学生らで構成されるこの研究グループは、Distilに大きな可能性があると考えている。Singh博士はこう述べている。「シンガポールは、世界のほとんどの国ぐにと同様に、水の供給量を増すための新たな水源に目を向けている。海には、新たに水をつくり出せるとほうもない可能性がある。われわれのシステムを使えば、まさにそれができるのだ。海水を淡水化し、しかも1立方メートルあたり1.5キロワット時以下という低エネルギーでそれが可能なのだ」
よりわかりやすく言うと、このシステムは従来のものと比べ、およそ半分のエネルギーで海水からこれまでの2倍の淡水を得ることができる。従来の逆浸透システムでは海水からの淡水の回収率は30%ないし50%だが、このシステムでは60%ないし80%の淡水を海水から回収することができるのである。
途上国での小規模用途にも最適
このシステムの動作原理は、概略つぎのようになっている。まず、海水がシステムにはいってくる。システムに必要なエネルギーは太陽光でまかなわれる。海水は、固体粒子を濾過によって除去したのち、太陽炉で加熱され、膜を通される。これは、純水の蒸気だけが透過することのできる膜で、透過した蒸気は凝縮され、集められる。
このシステムは従来の逆浸透法の競争相手と見られることが多いが、じっさいにはむしろ、逆浸透法を補完することのできるものといえる。
Ngee Ann PolytechnicのTam Li Phin環境・水技術革新センター長は、こう述べている。「このシステムは、小さなコミュニティ向けの小規模なものとして使うことができる。たとえば、途上国の、浄水施設に使う電力が手にはいらない地域においても、このシステムを使って飲み水をつくり出すことができる」