ドイツのブレーメンにあるフラウンホーファー製造技術・先端材料研究所(IFAM:Fraunhofer Institute for Manufacturing Technology and Advanced Materials)の研究者らは現在、チタン製伝熱管の代替品としてポリマー複合材料製伝熱管の開発を進めている。ポリマー複合材料の特徴は、プラスチックであるが熱を伝導する点である。このほかにも、連続した長さで生産できることでチタンや鋼よりも安価になる利点がある。
ポリマーに熱伝導性を付与した方法について、IFAMの研究者であるArne Haberkorn氏は、「われわれはこのポリマーに金属粒子を加えたのだが、より具体的に言えば、体積比で最大50 %の銅のマイクロファイバーを加えた。このようにしても、この複合材料の加工特性は変わらず、やはりほかのポリマーと同様に加工できる」と述べた。
彼らはすでにこの材料自体を開発しており、いまはその熱伝導性の最適化を目指している。これを実現するために、現在、海水淡水化のパイロットプラントにこの材料を用いた伝熱管を取り付けている。つまり、伝熱管に生成する微生物の被覆はどれくらいか、また塩気の強い環境のなかでこの材料がどれだけ腐食するかを検証し、その熱伝導性を試験しているのである。その結果に基づき、この複合材料の性質を最適化する。研究者らは、淡水化プラントの蒸発室中では、70℃で蒸発プロセスが開始するように設定しているが、これは70℃に加熱された高温ガスが伝熱管のなかに送り込まれているためである。これによりいくつかの利点が生まれる。すなわち、パイプに凝集する沈着物がほとんど生じないこと、材料がそれほど早く腐食しないこと、そして配管の内外の圧力差がそれほど大きくないことである。
この材料の用途は海水淡水化に限らない。Haberkorn氏は、「この材料に対する需要が最も大きいのは淡水化プラントであり、そのために開発したが、これを食品産業あるいは医薬品産業で使うことに何ら問題はない」と指摘した。
蒸発法の原理とチタンの高騰
飲料水は乏しい必需品であるが、これはもはや砂漠地域に限られたことではない。たとえば、スペインやポルトガルなどの地中海諸国では、飲料水は暑い夏の間は常に希少な資源となっている。その結果として、海水を脱塩して飲料水にかえる工業設備が増えている。淡水化手法の1つである蒸発法の原理は次の通りである。まず、高温ガスあるいは温水をポンプで送り込むことで加熱された伝熱管上に、海水が噴霧される。その後、純水が海水から蒸発し、塩を含んだ汚泥が残る。
蒸発法では、使用する材料及びその性質には、さまざまな要求事項を満たす必要がある。すなわち、伝熱管の材料は、熱を伝導することに加え、腐食および沈殿物の形成に耐える強固性が特に必要となる。そして、このような性質を長期にわたって維持し続けなければならない。このためメーカーは、伝熱管の材料としてチタンと高合金鋼だけを、いままで使用してきた。しかし、これらの材料は大変高価であり、さらに、軽量構造への需要が増えたことによる航空業界におけるチタン獲得競争の結果、チタンの需要はたえず増えている。その結果、納期の遅延および価格のさらなる上昇が生じている。