米国のLawrence Livermore国立研究所(LLNL)の研究者たちが、コンデンサ式淡水化(CD:capacitive water desalination)の淡水化効率を飛躍的に向上させることに成功したとEnergy & Environmental Scienceに研究論文(タイトル“Capacitive desalination with flow-through electrodes”)として発表した。取り組んでいるのはMichael StadermannとTed Baumannというふたりの研究者で、彼らはカーボンエアロゲルをコンデンサとして利用してエネルギーを貯蔵する方法を研究しているうちに、それがCDの手段として有望であることに気づいたという。
ゲルの溶媒を気化させてできるカーボンエアロゲルは、多孔質のために超低密度で単位質量当たりの内部表面積がきわめて大きくなる材料である。新しく考案されたカーボンエアロゲルは、電気的特性は従来のエアロゲルと変わらないが、従来のエアロゲルではナノメートルサイズだった気孔がマイクロメートルサイズになり、はるかに大きくなっている。それでいて構造的には堅牢で、さまざまなサイズや形状に加工することもできる。
そして、何より重要なところは、大きな気孔の内壁も多孔質になっている点である。この重層的な多孔質構造のために、大きな気孔の中ではそれほど圧力をかけなくても水を流すことができ、その水が大きな気孔の内壁の小さな気孔に入ると、気孔の数が多いために水と接する表面積が一気に拡大し、その表面積が1g当たり3000m2(テニスコート10面分以上に相当)にも広がる。CDでは、荷電したふたつの電極の間にコンデンサを置いて、そこに海水を流し、正負に荷電したナトリウムイオンと塩素イオンを電極で捕捉する仕組みになっているが、前記のようなコンデンサなら、それ自体を電極として利用することができ、イオンを補足する面積を一気に広げることができるのである。
このカーボンエアロゲルを用いたCDのアイデアは、新しいものではなく、1990年代に考案されていた。これまでのカーボンエアロゲルは気孔が小さかったため、それをそのまま電極として使用すると海水が滞留し、ふたつのナノ多孔質電極の間にセパレータの膜を設け、そこを通して塩分を分離しなければならなかった。その結果、脱塩サイクルに要する時間が長くなり、通す海水にも圧力をかけなければならなかった。しかし、新しいカーボンエアロゲルでは、気孔のサイズが大きくなったために、海水が中を貫流することができ、それをそのまま電極として使用することができるので、海水にもそれほど圧力をかける必要がなく、淡水化の効率が大幅に改善されるのである。これにより、従来のCD法に比べ、4~10倍の速さでの淡水化が可能になり、且つ塩分の除去効率も3~4倍を達成することができた。
海水淡水化の分野では、これまでのエアロゲルの限界のために、現在では逆浸透(RO)法や蒸発法が主流になっているが、これらの方法も大きなエネルギーや大きな設備を必要とする。しかし、この新しいカーボンエアロゲル法は、それらの方法より海水淡水化の効率を向上させると見られている。なお、LLNLのふたりの研究者はすでにこの貫流式電極コンデンサ脱塩(FTE-CD)モジュールのプロトタイプを完成させているという。
この研究論文は以下のURLからダウンロード可能である(有料)。
http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2012/EE/c2ee21498a#!divAbstract