近年、中国国内では淡水資源が不足しているため、海水淡水化プロジェクトには大きな注目が集められている。しかし、数年前から海水淡水化事業を開始している企業の状況は明るくない。以下では、海水淡水化事業から撤退した双良節能社をはじめとした中国企業の状況と、国内の海水淡水化事業への補助金制度の未整備について概説する。
双良節能社の撤退
2013年4月22日、双良節能系統股フン有限公司(以下、「双良節能」)は、ある海水淡水化プロジェクトへの投資を中止することを発表した。その理由について同社の担当者は「ひとつは、海水淡水化が新興産業分野であり現時点で市場ニーズが大きくないという点がある。もうひとつは、現在の水価格と比較した場合、海水淡水化は価格競争力が弱い点である」と語っている。双良節能は、引き続き他の海水淡水化プロジェクトについては進めていく予定であるが、今後の同社の動きには注目する必要があるだろう。
そのほか、GE Water & Process Technologiesの中国担当販売責任者は、「海水淡水化企業による設備供給能力が過剰というわけではなく、補助金などの関連政策が未整備であることが問題なのである」と指摘している。
2011年11月、双良節能は、中国国内における海水淡水化プロジェクトの市場ニーズが予測通りに成長していないことに気づき、投資を目論んでいた関連プロジェクトを二期に分け、一期だけを実施することに変更した。2012年末までの同社による海水淡水化関連プロジェクトへの累計投資額は2084.37万元(約3億3000万円)である。
参入意欲のある企業は多いものの、進展は遅れている
双良節能以外に一部の上場企業も、当初は海水淡水化事業に対して積極的に動いていたが、その進展は予定より遅れている。
海水淡水化事業における高圧ポンプ分野での事業拡大が大きく期待されていた南方ポンプ股フン有限会社は、2010年7月に海水淡水化用の高圧ポンプ、2011年12月にエネルギー回収設備の研究開発をそれぞれ開始したが、現時点でいずれも製造試験段階であり、当初予定していた目標は達成されていない。同社は海水淡水化プロジェクトに4492万元(約7億円)の投資を決めていたが、2012年末時点での投資額はその18.96%に留まっている。
また、逆浸透膜の有力メーカのひとつ南方汇通股フン有限会社のある販売担当者からも「海水淡水化分野における膜技術の利用はそれほど広くなく、その割合が限定的だ」という声が聞こえている。
一方、天津北疆発電所の海水淡水化プロジェクトでは計4台の設備が導入されたが、3台は運転休止状態である。天津、山東をはじめその他の地域でも同様に、導入した設備が稼働しておらず止まっているケースが見られる。
問題は補助金制度の未整備
2012年、中国政府は、「海水淡水化産業の発展加速に関する意見」、「海水淡水化科学技術「十二五」専項計画」を公表し、2015年までに国内海水淡水化生産能力を現在の3~4倍である220~260万トン/日に拡大させるという発展目標を挙げた。しかし、運営コストが高いという実状があるものの、それに関連する補助金制度が未整備であるという問題が顕在化してきた。ある有名な外資系海水淡水化関連企業の販売担当者は次のように語っている。「海水淡水化施設の運営コストは高く、補助金がなければ海水淡水化により生産された水を販売することは難しい」
現在、膜技術を採用する場合、水1トン当たりの造水コストは海外では約0.5ドル(約49円)であるが、中国では原水質などの理由でそのコストは水1トン当たり約7元(約110円)となっている。このようにコストが高くつくため、水道水に比べて海水淡水化は価格競争力が劣っている。
海水淡水化への補助金に関して、2012年6月に複数の関連機関が議論を行ったが、いまだに結論は出されていない。「海水淡水化は水利部、海洋局、環境保護部、発展改革委員会、都市農村住宅建設部などの部門が関わっているが、それらの意見を一致させることが困難なのではないか」と有識者らは考えている。