オーストラリアNCEDA、助成対象として4件の海水淡水化研究を採択、総額225万ドルを投じると発表

2012年9月3日に報じられたところによると、「オーストラリア国立海水淡水化中核的研究拠点(NCEDA: National Centre of Excellence in Desalination Australia)」は第5期資金提供期間における助成対象として、4件の新たな海水淡水化研究プロジェクトを選定したことを発表した。

助成先に選ばれたのはクィーンズランド大学、ビクトリア大学、ニューサウスウェールズ大学、およびオーストラリア西部にあるエディス・コーワン大学。それぞれ、国を越えた研究パートナーとしてスタンフォード大学(米国)、Dow Water & Process Solutions、ゲント大学 (ベルギー)と総額227万USD(約2億2351億円、現金と現物による貢献を含む)のプロジェクトを共同で進めていくという。これらの新しいプロジェクトはそれぞれ、①水処理時に温度を計測するための耐蝕光ファイバセンサの開発(現在はプロトタイプ)、②海水淡水化プラントで使用済みとなった膜のリサイクルおよび再利用に関する新たな選択肢の開発、③正浸透ナノろ過の技術を支えるナノテクノロジーの開発、④天然のろ過層を人工的に再現することによる海水淡水化プラント用の生物有機水フィルタの開発を目指すものである。

NCEDAが手掛ける海水淡水化技術の研究と、その技術を干ばつに強いコミュニティの構築に応用する研究については、現在オーストラリア全土で50件近いプロジェクトが進行中であり、その額は合計で7250万USD(約71億3863万円)を超えている。

今回新たに助成が決まったプロジェクトは以下の4件である。

① 光ファイバ表面プラズモン共鳴センサ*(プロトタイプ)の海水淡水化への応用(エディス・コーワン大学)

研究責任者: Kamal Alameh教授
プロジェクトの額: 76万5728 USD(約7540万円)

これまでに助成を受けたプロジェクトからさらに発展し、このプロジェクトはナノ加工を施した光ファイバをベースとした表面プラズモン共鳴センサのプロトタイプを開発する。これは、ナノスケールの金の層上に様々な配位子をドーピングすることにより、水中に含まれる特定の化学物質や微生物を検知するというものであり、高い感度と卓越した識別能に加えて高い選択性をもち、低コストでさらに腐食しないという特徴をもつ。このセンサは、海水淡水化プラントの環境やプロセスをモニタリングする上で強力なツールとなりうると見られている。

② 耐用年数を経た海水淡水化膜エレメントの新たな処分方法の開発(ビクトリア大学)
研究責任者: Dr. Marlene Cran

その他研究参加者:ニューサウスウェールズ大学およびDow Water & Process Solutionsプロジェクトの額: 29万4055 USD(約2895万円)

この研究は、使用済み海水淡水化膜の低スペック用途への転化および再利用に主な焦点を置くものである。しかし、膜の中ですべてのエレメントが再利用に適しているわけではなく、またエレメントはいずれも徐々に廃棄する必要がでてくる。膜エレメントは、多くの異なるポリマー成分からなる複雑な構造をもち、直接的にはリサイクル可能ではないものの、個々のコンポーネンツは潜在的には他の用途のため回収することが可能である。このプロジェクトは、他の産業用における有価物の再利用やリサイクルを中心に、耐用年数を経た海水淡水化膜の代替用途を見つけることを目指すものである。

③ 正浸透技術の検証(ニューサウスウェールズ大学)

研究責任者: Pierre Le-Clech准教授
 その他研究参加者:ゲント大学 (ベルギー)
プロジェクトの額34万5782USD(約3405万円)

このプロジェクトは、最近NCEDAの助成を受けた研究の中で開発した正浸透技術の更なる検証を目指す。他と比べた相対的なメリットを特定するため、商用可能なさまざまな膜について追加の実験研究が行われる。ゲント大学との協力により、詳細なエネルギーモデルも開発される。最終的に、関係する膜メーカーとの間で試作モジュールの開発を前提に議論し、技術移転が検討されることとなっている。

④ 生産性が高く選択性に優れた生物有機ハイブリッド膜フィルタの開発(クィーンズランド大学)

研究責任者: Michael Monteiro教授
 その他研究参加者:スタンフォード大学(米国)
プロジェクトの額: 86万4242 USD(約8510万円)

このプロジェクトは、高い選択性、高い水透過速度を備え、かつエネルギー消費量の低い新たな生物有機(Bio-Organic)ハイブリッド膜の開発を目指す。研究チームは今回、ポリマー表面上の正しい位置に生体分子を捕捉・配向し、また支持する機能をもたせた人工高分子膜の素材として、これまですでに優れた浄水機能を示しているタンパク膜を採用することとしている。これらのタンパク質は現在工業スケールで生産できる可能性があり、本研究では、天然のろ過プロセスの再現を試みることにより、膜技術の次世代を切り拓くことを目指している。

* 表面プラズモン共鳴センサ:金属と誘電体界面に存在する電子の疎密波である「表面プラズモン波」の励起条件が誘導体の誘電率に依存することを利用したセンサ。免役反応を検出するバイオセンサなどに利用されている。光ファイバも表面プラズモン波を励起することができるためここで採用されている。

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