中国水市場コラム(2014年2月号) – 中国・都市部における汚泥処理事業の発展現状と課題

本稿は、EnviXのパートナーでもある「清華大学環境学院 常杪 助教授」による中国の水市場に関するレポートである。今回は、中国の「都市部における汚泥処理事業」に焦点を当て、その最近の動向を概説する。

1. 中国都市部における排水処理と汚泥発生の現状

中国では都市部排水処理事業の急速発展とともに、都市下水処理能力および下水処理率も向上されつつある。中国住宅建設部の2013年末の発表によると、2013年第3四半期までに全国の都市部において累計で3501か所の排水処理場が稼動し(図1)、1日あたりの処理能力は1.47億m3に達し(図2)、2010年の同時期と比較して大幅な増加を達成した。また、2012年に公表された「“十二五”全国都市部排水処理及び再生水利用施設計画」では、2015年までに2010年比で4569万m3/日の排水処理能力の拡大目標が挙げられており、排水処理施設の建設は更に加速すると見込まれている。

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図1 中国排水処理施設数の変遷(2010年9月~2013年9月)

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図2 中国排水処理能力の変遷(2010年9月~2013年9月)

排水処理施設の増加および排水処理能力の拡大に伴い、都市部排水処理場での汚泥の発生量も急速に増えつつある。2009年の政府の公式発表では、当時の汚泥発生量(含水率80%の汚泥)は2005万トンに達していたという。近年の汚泥発生量については、公式の統計データがないものの、2012年までに国内汚泥発生量(含水率80%の汚泥)は約3000万トンにも及んでいたと予測されている。

2. 中国都市部における汚泥の処理

中国第十一次五カ年計画期間(2006~2010年)以来、中国における汚泥発生量は大幅に増加しているものの、汚泥処理能力の拡張は進んでいない。汚泥処理に対する責任が不明確であるという指摘もあり、排水処理施設はどこまで処理責任を負うべきかが明確化されてこなかったことがその要因のひとつである。中国第十一次五カ年計画末期の2010年になっても全体の75%以上の汚泥が適切に無害化処理されていないと、中国政府は公式に認めている。

処理方法については、埋め立てによる処分が依然として全体の60~65%を占め、しかも排水処理場により脱水濃縮処理を経たものの適切な安定化処理をせずに埋め立てるケースもよく見られる。また全体の15%以上の汚泥が何らかの形で不法投棄されているという指摘もある。

2008年以降、中国政府は汚泥処理事業に力を入れており、汚泥処理関連政策・基準・指南の公布、モデル事業の実施促進、政府専用資金の出資などの取組みを通じて汚泥処理分野の発展を促進してきた。特に“十二五”計画期間(2011~2015年)に入ってから更に汚泥処理事業を重視し、「“十二五”全国都市部排水処理及び再生水利用施設計画」の公表などにより明確な発展計画と発展目標を挙げ、各地で既存施設の更新・改修、新規処理施設の建設など汚泥処理事業の実施を加速させている。

「“十二五”全国都市部排水処理及び再生水利用施設計画」における汚泥処理事業の促進と発展目標2012年5月中国政府は、「“十二五”全国都市部排水処理及び再生水利用施設計画」を公表し、2015年までに直轄都市、省会都市(省庁所在都市)、計画都市での汚泥無害化処理率を80%に、その他設市都市では70%、県城および重点鎮(重点小都市)では30%を達成するという目標が掲げられた。また、施設整備による年間518万トン(乾燥汚泥)規模の新しい汚泥処理能力の拡張も目標として挙げられた。さらに、「十二五」期間中の汚泥処理施設整備に対する投資額は総額347億元(約5800億円)に達することが明記されている。
地域別にみると、経済が比較的発展している沿岸部の建設計画の規模が大きく(図3)、また都市部特に大都会の関連インフラ整備がより重視されている形となっている。

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図3 2015年までの地域別の汚泥処理能力の向上

3. 2013年以降の主な政策動向

2013年に入ってから中国政府は、排水処理・汚泥処理分野に関して「都市・鎮の排水・汚水処理条例」をはじめ、幾つかの重要な政策を公表した。それぞれの概要は次の通りである。

都市・鎮の排水・汚水処理条例
「都市・鎮の排水・汚水処理条例」は、2013年10月に中国国務院令として公布されたものである。汚泥処理に関する義務事項については例えば以下の項目がある。
処理済みの汚泥が国家の関連基準を満たすこと
発生した汚泥と処理済み汚泥の行方・用途・使用量などについての追跡・登録を実施すること
都市の汚水管理部門・環境保護主管部門に報告すること
また、条例違反に対する処罰も明記されている。
同条例は、2014年1月1日からすでに施行されている。
国務院都市インフラ建設の強化に関する意見
都市インフラレベルの全面的な向上を目的とし、2013年9月に国務院により公表されたものである。汚泥処理に関して、同意見は、無害化・資源化の要求に基づき汚泥処理施設の建設を強化し、2015年までに都市部における汚泥の無害化処理率を70%にするという目標を挙げている。
国務院常務会議:公共サービスの民間委託を推進
2013年7月、李克強総理が召集した国務院常務会議では、公共サービスの民間委託推進が強調され、都市インフラ整備の強化に向けた計画が立てられた。
同会議は、公共サービス分野における市場参入許可を拡大し、市場が運営できるものはできる限り市場の力に任せ、公共サービスの形成と改善を加速し、国民がより多くの便宜と実益を得られるようにしなければならないと指摘している。

4. 中国の汚泥処理プロセスの採用状況

中国の汚泥処理に関して、2011年に公表された「都市部排水処理場汚泥処理処置技術指南」では、「安全、環境にやさしい、循環利用、省エネ、各地の事情に適した、穏当である、リスクが低い」という原則が定められた。処理方法については、汚泥の状況に応じて、嫌気性消化または好気発酵処理後の土地利用、焼却、建材利用、埋立ての順で採用すべきであることが明確にされた。

既存施設のうち「乾燥化+埋立て」による処理プロセスを採用する企業の割合が圧倒的に多いものの、2008年以降の新規プロジェクトにおいては土地利用や焼却のほうが多く採用されるようになっている。

清華大学環境学院は、2008年から2012年にかけて実施された120件の新規プロジェクトにおける処理方法の採用状況を調査した。この結果、土地利用は44%、焼却処分は34%、埋め立て処分は14%、建材利用は8%を占めていた(図4)。焼却処分はさらに「単独焼却」、「火力発電所の共同焼却」、「ロータリーキルン共同焼却」に分けられ、その中で火力発電所共同焼却プロジェクト数が21件で最も多く、プロジェクト全体の17%を占めている。

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図4  2008年~2012年の汚泥処理プロジェクトにおける処分方式内訳
出展:清華大学環境学院調査結果

地域別では、例えば上海市は、2012年に公表した汚泥処理に関する処理処置事業計画でその方向性を示しており、ほとんどの新規事業が「脱水+乾燥化+焼却+建材利用」または「脱水+好気発酵+土地利用」のいずれかの処理方法を採用することを明らかにしている。
今後ますます埋立てによる処分は減少し、土地利用や焼却といった汚泥処理手法が採用されると見込まれる。

5. 中国の汚泥処理事業の形態

中国の汚泥処理事業は、政府インフラ事業の一環として展開され、汚泥処理施設の多くが政府により建設・運営・管理されている。北京市の場合、市内の6か所の大型汚泥処理処分施設のうち、北京城市排水集団責任有限会社(排水処理事業における政府系大手)が5か所、北京金隅集団股フン有限公司(政府系セメント大手)が1か所を建設・運営・管理し、市内の各主要排水処理施設から出た汚泥の運搬・処理に当たっている。また、上海市の場合、上海市排水有限公司(都市部水関連インフラ整備専門の政府系大手)が市内の主な汚泥処理施設の建設・運営管理を担当し、上海泊竜港都市部汚泥処理施設(200トン/日・2011年に稼動)、上海竹園汚泥乾燥化・焼却処理施設(230トン/日・建設中)など国内最大級の処理施設が同社の傘下に置かれている。

しかし、近年では民間資本による排水処理分野への積極的な事業展開が進められている。汚泥処理関連事業に関しては、新規プロジェクトにおいて、BOT、BOO等の方式を利用し民間資本の導入による案件が急速に増え、新プロジェクトにおいて既にかなりのシェアを占めていると見られる。具体的な企業としては、巴安水務社(シンセン証券取引場上場コード300262)、首創股フン社(上海証券取引場上場コード600008)、南海発展社(上海証券取引場上場コード600323)、中電環保社(シンセン証券取引場上場コード300172)、東北国電環境社、龍江環保者社などの水処理関連大手が、汚泥処理における投資・運営などの関連分野で積極的に事業を展開し、各地で新規プロジェクトを獲得している。

一方で、外資企業の同分野への事業展開は現段階では比較的少ない。関連設備の提供が中心であり、そのうち日系企業の月島機械や三菱重工が汚泥乾燥装置など周辺設備販売事業を展開し、中国市場で一定の実績を挙げている。

表1 2013年民間資本投資による汚泥処理処置プロジェクトの事例

事業者 プロジェクト名 規模(トン/) 投資額(億元) 方式 時期 地域 技術
北京沃土天地生物科技有限公司 内モンゴル通遼市主城区汚泥処理BOTプロジェクト 150 0.36 BOT 2013年12月(落札・契約) 内モンゴル自治区 高温好気性発酵+土地利用
北京国電清新環保技術股フン有限公司の複数の子会社による連合体 臨临汾市汚泥処置センタープロジェクト 300 1.90 BOT 2013年5月(落札・契約) 山西省 中温帯乾燥化法
無錫国聨環保能源集団有限公司 常州市武進区汚泥処理処置プロジェクト 500 1.50 BOO 2013年12月(落札・契約) 江蘇省 高度脱水+焼却
南海発展股フン有限公司 南海区汚泥処理プロジェクト 450 2.07 BOT 2013年8月 広東省 乾燥化焼却
青島易安易生物工程開発有限公司 登封市汚泥処理BOTプロジェクト 100 n/a BOT 2013年7月(落札) 山東省 好気性発酵+土地利用
東江環保股フン有限公司 福永処理場二期プロジェクト 600 0.70 BOT 2013年 広東省 固体化+埋立て
南京中電環保股フン有限公司 南京汚水処理場汚泥処理プロジェクト第二セクションと第三セクション 360 0.58 BOO 2014年1月 江蘇省 焼却
上海巴安水務股フン有限公司 上海青浦区都市汚水処理場プロジェクト 200 0.50 BOT 2013年11月(落札) 上海市 乾燥化+焼却(別業者)

そのほか、地方政府から専門業者に汚泥処理事業を全面委託する事例も見られるようになってきた。2013年1月、成都市の排水処理事業を統括している成都市水務局は、水事業大手の興蓉投資社(シンセン証券取引場上場コード:000598)の子会社である成都市排水公司と契約し、成都市中心区の都市部汚泥処理事業を全面的に委託した。

6. まとめ

近年中国は汚泥処理に対して様々な努力をし、その結果一定の成果を挙げているが、いまだ大きな改善には至っていないと見られる。適切に処理されている汚泥量が総発生量に対して占める割合は依然として低いと、国内の多くの専門家が指摘している。また現状、土地利用などを目的とした汚泥の無害化処理については、建設コストおよび運営コストが比較的高く、普及に大きな課題が残っている。

中国の排水処理事業の急速な発展に伴い、汚泥処理が急務となっている。“十二五”計画では、都市部汚泥処理率を70%までに達成させる目標が掲げられているが、2012年末の政府の発表では、汚泥事業における進展が計画より遅れ、“十二五”計画全体目標のわずかに26.9%しか達成できていなかったという。このため、汚泥処理施設の建設事業が更に加速し、関連設備に対するニーズも拡大する見込みである。また国の公共サービスの民間委託推進方針により、民間資本の同分野における進出も更に活発化すると考えられる。

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