経済協力開発機構(OECD)は、2016年2月11日、水資源のガバナンスについての報告書「都市における水ガバナンス(Water Governance in Cities*1)」を発表し、都市の水管理行政においては今後、中央政府と水を大量消費する産業との連携を深めていかなければ人口増と気候変動の重圧に対処することが難しくなると結論づけた。また同報告書は、水資源について今後必要とされる莫大な投資も、深刻な水関連のリスクであるとも述べている。
財政難の中、水関連インフラの更新にかかる巨額の費用も大きなリスクに
同報告書の著者であり、OECDの水ガバナンスプログラムのヘッドを務めるAziza Akhmouch氏は次のように説明する。「OECD諸国についてこの報告書が光を当てた事実から、先進国において現在提供されている水の安全保障とサービスのレベルは当たり前のものではないということを再度認識するべきでしょう。我々は、水道管の改修を行う制度を確立しなくてはなりません。これまで、インフラの更新は公的な支出のみに頼ってきました。しかし、そのためにはしばしば納税者のコンセンサスが必要となり、水道を管轄する当局は、財政難の中でこれまでにない資金源を見付ける必要に迫られています。よりよいガバナンスを行うことで、資金確保を促進し、資金を有効活用することが可能となるでしょう。」
今回の報告書の基礎となった調査は、OECD加盟国およびパートナー国合わせて17ヶ国、48都市(アカプルコ、バルセロナ、グラスゴー、香港、マラガ、ニューヨーク、リオ・デ・ジャネイロ、蘇州など)を対象として行われた。その調査結果から、各都市における水の管理手法は向上しているものの、需要の増加や水不足、洪水、人口増などの問題に対応する上で老朽化した水道施設の更新が追いついていないことがわかった。同報告書は、世界の人口の半数が住む都市は、将来の課題に対処するため、組織のあらゆるレベルを対象として水管理の果たす役割と責任について今一度見すべきだと結論づけている。Akhmouch氏は次のようにコメントした。「私たちの大半、特に都市部の住民にとって、これまで水とは、蛇口をひねれば出てくる当たり前に存在するものでした。水の問題は、貧困や教育、移民などより目につきやすい問題の後ろに見落とされてきたのです。この状況を受けて、我々は何も行動を起こさないリスクについて、一般市民の意識を高めなくてはなりません。世界経済フォーラムの2015年版グローバルリスク報告書で、水関連の危機が最も大きなリスクと位置づけられたことは注目に値します。将来の水関連リスクをうまく制御するためには、政府機関の協力と公的機関、地域・地方当局、その他のステークホルダーのより積極的な関与が必要です」
今回行われた調査の主な結果を以下に例示する。
- 2012年には98%の住民が飲料水を手に入れられる状況にあった(1990年には94%)。
- 92%の都市が老朽化したまたは不完全なインフラにより水関連サービスに影響が出ていると述べた。
- 81%の都市が水関連サービスに影響を与える要因として、洪水や干ばつを挙げた。
- 水関連の課題として、75%の都市が水質汚染を挙げ、65%が経営不振や職員不足を挙げた。
- 平均の漏水(water loss)率は2012年に21%であった。
- 排水の処理率は2012年に90%と1990年の82%から上昇した。
- 一人当たりの国内の水消費量は、効率向上と無駄の削減を反映し、2000年から2012年の間に20%減少した。
同報告書は、都市における水ガバナンスに影響をおよぼす主要ファクターを分析する他、政府機関のレベル毎の役割と責任の配分について検討し、また各レベルに存在するガバナンスギャップを評価している。さらに、領土間にまたがる場合の管理の断片化の問題や省庁間の縦割りの問題などを軽減するためのフレームワークを提案している。