米国:水不足に伴う今後の成長が期待される水ビジネス(3) 節水技術

住宅・企業を対象とした水消費量の現状と先端IT技術を駆使した水削減の取り組み

米国では、カリフォルニア州などの西部地域を中心として、過去数年間に亘る干ばつ、人口増や産業活動の活発化による水消費量の増加に伴い、水不足が深刻化している。米環境保護庁(EPA)によると、米国の水消費量は現在、1日当たり約4000億ガロンに達する*1。また、2014年時点における水消費量を用途(セクター)別に区分した場合、農業灌漑が全体の60%を占めるなど最も多く、次いで上水道システムにて供給される住宅や企業による水利用が25%に達している。

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図 2014年時点における米国用途別水消費量の割合(単位:%)
(出典:EPRI)

米国では、水不足の解消に向けて、淡水化技術や再生水の利用等、様々な取り組みが進められている。近年では、水消費量の削減や効率的な水管理を目的とした多様なIT技術の利用促進も見られる。特に最近では、医療や電力、製造業などの多様な産業セクターにて利用が進みつつあるIoTやビッグデータなどのIT技術を、水消費量の削減に取り入れる動きが広がりつつある。住宅や企業による水消費量は産業セクターの中で全米で2番目に多く、水を消費する顧客(エンドユーザー)数が膨大であることから、同セクターをターゲットとした節水に寄与する先端IT技術が相次いで導入されている。昨今の深刻化する水不足問題に対処するため、これらのIT技術の普及が期待されており、新たなビジネスチャンスとして注目されている。

 

水道スマートメーターの導入が今後拡大

米国では現在、住宅や企業などのエンドユーザーに対して、電力・ガスを対象とした多数のスマートメーターが既に設置されている。これに追随する形で、地元水道供給事業者が、水消費量の削減や漏水検知を目的として、水道スマートメーターの導入を積極化している。米水道供給事業者による水道スマートメーターの導入に向けた投資額は、2013年から2020年までの間20億ドルに達するとともに、スマートメーターの導入台数は2011年時点の1030万台から、2017年には2990万台へ拡大することが見込まれている*2。北米地域における水道スマートメーターの主なベンダには、ネプチューン社(Neptune)、バジャー社(Badger)、センサス社(Sensus)、イトロン社(Itron)などが挙げられ、多数のベンダが市場に乱立している。

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図 北米地域における水道スマートメーターの主要ベンダとマーケットシェア
(出典:Sensus社発表資料*3

カリフォルニア州やテキサス州などを始め、全米各地で水道スマートメーターが普及しつつある。特にカリフォルニア州では、サンフランシスコ市などの一部の都市では、他地域よりも先行して同メーターの導入が本格化している。地域住民に上下水道を提供するサンフランシスコ市公益事業委員会(San Francisco Public Utilities Commission)はこれまで、正確な水消費量の把握や、顧客との水消費量データ共有を通じた水漏洩の検知を目的として、既存の水道アナログメーターからスマートメーターへの取換えを積極的に進めてきた。同市では、Elster社が製造する水道スマートメーター、Aclara社製通信インフラの導入に取り組んでおり、水道スマートメーターの導入率は96%に達している。また、グレンデール市やバーバンク市、ロングビーチ市、プレサントン市といった、カリフォルニアの中小都市でも、住宅・企業を対象とした水道スマートメーターの整備を進めている。一方、カリフォルニア州最大都市であるロサンゼルス市は2016年2月、市内の公園に水道スマートメーターを設置し水消費量の削減を目指すパイロットプロジェクトを実施する方針を明らかにした。市内に位置する28か所の公園に合計100台に及ぶ水道スマートメーターを設置し、公園の水撒きなどに利用される水消費量を15分毎に測定、データをリアルタイムに収集、活用することで、水利用効率の向上と漏水箇所の迅速な特定化を図る。

また、テキサス州ウィチタ・フォールズ市は2016年7月、既に設置されている3万4000台に及ぶアナログメーターをスマートメーターへ取替える方針を明らかにしたほか、同州シーダーパーク市は同年8月、市域内に2万2000台の水道スマートメーターを導入する計画を発表した。ニューメキシコ州サンタフェ市も2015年4月、住宅・企業へ約3万5000台に及ぶ水道スマートメーターの導入計画を明らかにするなど、水道スマートメーターの導入が全米で広がりつつある。

 

IT技術を活用した住宅・企業向け節水技術・サービスの拡大

水道スマートメーターの普及に伴い、同メーターから収集された水消費量データ等を「見える化」するサービスが市場化されている。同サービスは、過去の水消費量をビジュアル化して表示することで、水利用に対する顧客の行動変化を促し、節水につなげることを狙いとしている。また最近では、IoTの普及に伴い、家電製品や照明機器、セキュリティカメラやドアなどのセキュリティデバイスなどを統合し、包括的な省エネやセキュリティ管理を行うスマートホーム(ホームオートメーションサービス)が登場し、これに、漏水センサーやスマートスプリンクラーなどの節水の機能を持つデバイスの接続も進みつつある。更に、米国では、水道管などの上水道システムインフラの老朽化により、同システムからの漏水が問題視されている。そのため、センサーやカメラなどの先端デバイスをインフラへ設置、ネットワークを介して、迅速に漏水を検知する取り組みも出始めている。

 

水消費量の「見える化」サービスの拡大

「見える化」サービスは、Neptune社やSensus社などのスマートメーターベンダのみならず、Dropcounter社やWaterSmart Software社などの新興企業も相次いで市場展開している。例えば、WaterSmart Software社は、先進的なデータアナリティクス技術と行動科学に基づき、水道スマートメーターから収集した過去の水消費量データに加えて、世帯属性(家族構成など)が類似した他顧客のデータを比較、「見える化」する。また、水消費量が通常時よりも多い場合や漏水が発生した際にはアラート(警告)を顧客へ通知し、水消費量が過大となる前に顧客へ注意喚起を行う機能を有している。同社はこれまで、フロリダ州セント・ジョンズ・リバー水管理局(St. Johns River Water Management District)やオレンジ郡公益事業社(Orange County Utilities)、カリフォルニア州パサディナ市水電力局(Pasadena Water and Power)など、多数の水道供給事業者と契約している。

 

重要性が増す漏水検知サービス

米国では、住宅・企業に敷設された水道管や上水道システムなどのインフラの老朽化が進んでおり、水消費量を増大させる漏水が問題視されている。EPAによると、米国一般住宅当たりの年間漏水量は平均1万ガロン、全米合計で1兆ガロン以上に達し、これは1100万世帯以上の年間水消費量に匹敵する。また、一般住宅の10%が1日当たり90ガロン以上の漏水が発生している*4。住宅・企業の漏水防止に向けて、米国では様々なメーカーが漏水探知センサーを市場化している。水道管やパイプの周辺などに同センサーを設置、Z-WaveやWi-Fiなどの無線通信規格を通じてハブと接続し、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を通じて、顧客は外出先からの漏水状況の確認や漏水の警告通知の受信が可能となる。主要ベンダによる漏水センサーの概観は以下のとおりである。

表 米国における主要ベンダによる漏水センターの概観
(出典:各社資料をもとにエンヴィックス作成)

主要ベンダ名 製品名 センサーの機能・特徴
Fibaro 「Flood Sensor」
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  • 漏水に加えて、急激な温度の変化、デバイスの傾き(横ずれ)も検知。これらを検知した場合にサイレンが鳴るアラーム機能が付随
  • 無線(Z-Wave)、有線のいずれでも使用可能
  • 同社は、温度や照明の輝度、人の動きを測定するモーションセンサー、ドアや窓の開閉状況を把握するドアセンサーなどのデバイスを市場化しており、これらのデバイスと「Flood Sensor」を統合したスマートホームサービスも提供
SNUPI Technologies 「Wall y」
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  • Z-WAVE、Bluetooth、ZigBee等の無線通信規格は使用せず、壁面内側の銅線をアンテナとして活用する独自の無線システムを採用
  • 漏水に加えて、温度・湿度も計測
  • ネスト社(Nest)などの他ベンダとの提携を通じて、エアコンを自動調整するスマートサーモスタットや照明機器などの他デバイスとの接続が可能
SmartThings 「SmartSense Moisture Sensor」
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  • 漏水を検知した場合、顧客の携帯電話へテキストメッセージ等を通じて警告を発信
  • 漏水に加えて、温度や湿度も検知。センサーが設置された場所の温度が低温になった場合、水道管の凍結の恐れがあることから、警告を行う
  • スマートホーム「SmartThings」を介して、他のベンダが製造する、照明機器、セキュリティカメラ、モーションセンサー、スマートサーモスタットなど、他デバイスとの接続が可能
Quirky 「Overflow」
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  • WiFiを介して検知した漏水を顧客へ送信など、シンプルな機能に留まる
  • スマートホームサービルプロバイダのウィンク社(Wink)へ参画するベンダが製造するデバイスとの接続が可能

 

IoTを基盤としたスマートホームサービスの登場

「見える化」サービスや漏水検知センサーの導入に伴い、多様なデバイスをネットワークで統合、相互制御するスマートホームサービスが相次いで登場している。同サービスは、電力や水の消費量の削減、顧客の利便性向上を目的としており、今後米国消費者への浸透が期待されるIT業界で最も注目されるサービスの一つである。大手IT企業や総合メーカーが過去数年間にわたり、積極的な企業買収や提携を通じて、スマートホームサービスの市場化を進めてきた。例えば、Samsung社は2014年8月、「SmartSense Moisture Sensor」を含めた多様なデバイスを統合したスマートホームサービスを提供するSmartThings社を約2億ドルで買収し、同分野への進出を果たした。また、Google傘下のNest社は、自社のスマートホームネットワークへ接続するデバイスの種類の拡大を図っており、2014年11月には「Wallyセンサー」を開発するSNUPIテクノロジーズ社(SNUPI Technologies)と提携した。更に、SNUPIテクノロジー社は2015年10月には、自社製造の家電製品を中心としたスマートホームサービス事業の展開を狙う大手小売業者であるSears社に買収された。また、IoTを介して接続されるデバイスには漏水センサーに加えて、スマートスプリンクラーも挙げられる。Rachio社、Spruce社などのベンダが、庭の芝生の水撒きを行うスマートスプリンクラーを製造している。RachioはNestのスマートホームサービス、Spruceは”SmartThings”との接続が可能であり、天候や気温などの気象条件に合わせて、庭の芝生への水撒きのスケジュールを自動調整し、住宅用顧客の水消費量を削減する。

 

水道供給事業者向け漏水検知モニターの登場

漏水検知モニターは、一般住宅のみならず、地下へ敷設されている上水道システムへの活用も可能である。米国では、主に北東部地域を対象として、敷設後100年以上経過した水道管も多く老朽化が進んでおり、漏水量も膨大である。米国水道協会(AWWA:American Water Works Association)によると、水道管の老朽化による漏水量は全米で年間2兆ガロン以上に及び、水道管で供給される水道水全体の6分の1が漏水している*5。米国土木学会(American Society of Civil Engineers)が2013年に発表した米国既存インフラの老朽化を示す指標では、上水道システムはDランクと、最低水準に位置付けられており*6、老朽化が深刻化している。最近では、漏水の早期検知を目的とした、漏洩センサーやIoTを活用した取り組みが限定的に開始されつつある。

カリフォルニア州に拠点を構えるスマートウォーター新興ベンダのElectro Scan社は2015年9月、水道管からの漏水を検知、測定する機能を有したデバイスの開発に成功した。同デバイスは、低電圧伝導度センサー、高精度カメラ、圧力センサー、音響センサーが統合されており、消火栓や水道管のバルブなどから水道管の内部へ挿入させ、水道管における漏水箇所を内部から正確に検知することが可能となる。同デバイスでは、低電圧伝導度センサーにて水道管内部の漏水箇所を検知するほか、圧力センサーを通じて漏洩箇所の圧力を測定、漏水量を算出する。収集されたデータはクラウドサーバーへ送信され、漏洩箇所の場所と漏水の規模(大きさ)を特定化する。

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図 Electro Scanが開発した新製品
(出典:Water-Technology.net)

また、AT&T社は2015年6月、IBM社、Mueller Water Products社との提携を通じて、水道管の漏水を検知するソリューションを発表した。ミューラー・ウォーター・プロダクツ社が開発するEchologicsセンサーと音響技術、AT&T社LTE無線ネットワークを活用し、水圧や水温、漏水を検知する。AT&T社による動きは、米国におけるIoTを活用したインフラ制御の先駆けとして注目されている。

 

まとめ

米国では、水不足を解消する一つの手段として、IT技術を活用した様々なサービスや製品が市場化されている。住宅・企業では既に、電気スマートメーターを基盤とした、電力消費量を削減するデマンドレスポンスやスマートサーモスタットを介したエアコンの自動制御など、多様なサービスが導入拡大しており、これらのIT技術に対する顧客の認知度や理解度が高まっている。既に先行して進められている電力消費量の削減に向けた取り組みが、水分野へも適用拡大されつつある。また、電力や水の消費量の削減やセキュリティ強化などの機能を統合した、スマートホームサービスも米国消費者の間で浸透しつつある。昨今の水不足が深刻化する中、先端IT技術を活用したこれらのサービスは今後市場拡大することが見込まれている。また、米国では、上水道システムなどのインフラの老朽化対策が喫緊の課題として捉えられている。同問題を解決する手段として、漏水検知センサーなど、IoTを活用した新たなサービスや製品も登場している。電力IT化の進展に伴い、スマートグリッドが米国にて普及し、多様な新規サービスが登場した過去の流れと同様に、水不足解消に先端IT技術を活用することで、革新的なサービスが創出される潜在性を有している。水消費量削減に関する市場が成長するにつれて、今後拡大すると期待される水ビジネスの機会となり、今後の動向が注目される。

 

*1 Delaware government, “Water trivia facts from the Environment Protection Agency” May 2016
http://milton.delaware.gov/files/2016/05/Water-Trivia-Facts-from-the-EPA.pdf

*2 Bloomberg Business, Water utilities to spend $2 billion on smart meters through 2020, May 13, 2013
http://www.bloomberg.com/news/articles/2013-05-13/water-utilities-to-spend-2-billion-on-smart-meters-through-2020
USA Today, Foes fights the tide of smart water meters, February 13, 2013
http://www.usatoday.com/story/news/nation/2013/02/01/smart-water-meters-fight-utilities/1884677/

*3 Sensus, “Business Overview Sensus” January 2011
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1281223/000119312511019861/dex991.htm

*4 EPA, “WaterSense”
https://www3.epa.gov/watersense/pubs/fixleak.html

*5 NPR, “As Infrastructure Crumbles, Trillions Of Gallons of Water Lost” October 29, 2014
http://www.npr.org/2014/10/29/359875321/as-infrastructure-crumbles-trillions-of-gallons-of-water-lost

*6 米国土木学会は、インフラの老朽化状態を、A:優、B:良、C:可、D:悪、E:不可の5段階評価している。

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