自己組織化するアルミ・ナノ粒子膜で高効率可搬淡水化装置を実現

ジョージア工科大学と南京大学の研究者らが、自己組織化するナノ粒子膜を利用した新たな太陽熱淡水化技術を開発した。特筆すべきは、この技術が、安価で容易に手にはいり、何回使っても安定を保ち、しかも加工費もきわめて安い材料(おもにアルミニウム)を基盤にしていることだ。この研究成果をまとめた論文は、Nature Photonics誌の最新号に掲載されている*1

研究者らはこう述べている。「われわれのプラズモン増強淡水化装置は、光の吸収度を高めるとともに、より局所化された加熱方式を採用することによって、エネルギー伝達効率を大幅に向上させている。効率のよい太陽熱淡水化を実現するには、その第一歩として広帯域で高効率の光吸収が不可欠だ

ここでキーワードとなっているのが「プラズモン増強」だ。これは一般に、太陽エネルギー利用の分野で大きなテーマになっている。どういうことかというと、光がある種の物質(金属、結晶)に当たると、その物質のなかの自由電子が集団的に励起され、ひとつの大きな波を形成する。この波は、プラズモンと呼ばれる一種の準粒子である。プラズモンには、分子センサー、コンピュータ・チップ上の情報伝送、太陽エネルギー利用分野など、さまざまな用途が考えられている。

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広帯域・高効率の光吸収を実現するアルミ・ナノ粒子膜

プラズモンの話をさらにつづけると、ある種の金属が太陽光スペクトルの範囲の輻射にきわめてよく反応することがわかっていた。アルミニウムもそのひとつである。研究者らが論文で述べているように、アルミニウムは、センサーや光触媒に使えるプラズモン物質としてかねてから研究の対象になってきたが、反応する光の帯域が比較的狭いのが難点だった。太陽熱淡水化に応用するには、この帯域をひろげる必要がある

この問題を解決したのが、論文の著者らが開発した「アルミニウム・ナノ粒子の3D多孔膜への自己組織化によるアルミニウム・ベースの広帯域・高効率プラズモン吸収体」である。自己組織化は、ナノスケールの微細孔をもつように処理をほどこされた酸化アルミニウム・シートに熱を加えると起きる。このとき、シート内のアルミニウム・イオンの一部が熱で蒸発してシートの最上層に集積する。これによって、いくつかのメカニズムにより効率よく太陽熱を吸収することができるプラズモニック構造が出来上がる。

この原理を応用すると、プラズモニック構造をもつアルミニウム膜を低コストで製造することができる。この膜を塩水の水面を横切るようにして浸すことで、入射する太陽エネルギーから効率よく変換された熱が水を水蒸気に変える。水蒸気は上昇して冷却され、淡水として凝縮される。塩水のさまざまなサンプルを使ってこれを試みた結果、この方法によって塩分濃度を4桁下げられることがわかった。

小規模用途に向くすぐれた可搬性

この淡水化システムのすぐれた可搬性について、論文の著者らはこう述べている。「これまでのほとんどの淡水化システムと違って、われわれのプラズモン増強太陽熱淡水化装置は可搬性がきわめて高く、そのため、個人向けや小規模用途に理想的だ。アルミニウム・ベースのプラズモニック構造は、使用する材料も安価で、製造工程もスケーラブルであるため、最小のカーボン・フットプリントで太陽熱淡水化を実現する可搬型のソリューションに向いている」

太陽熱による淡水化は、水不足という地球の病に効くすばらしい万能薬だ。この地球の水循環の一部として自然に得られる淡水はどこからくるのか――そのおおもとは、けっきょくのところ、太陽だ。熱が水蒸気を生み、水蒸気が雨を生む。淡水の雨である。この仕組を、わたしたちは利用することができる。

じっさい、わたしたちは、さまざまな方法で太陽エネルギーを淡水化に利用しており、そのすくなくともひとつはすでに商業化されている。だが、その方法はいまの段階では淡水化のほかの方法と比べてまだ効率がわるく、世界銀行のデータによれば、1立方メートルあたり1.52ドル(約162円)から2.05ドル(約218円)のコストがかかる。太陽熱による淡水化が大規模に利用されるようになるには、コスト面で、よりクリーンでない(化石燃料に依存した)方法と肩を並べる必要があるだろう。現在、化石燃料に依存した淡水化は、太陽熱を利用した方法の約半分のコストしかかからない。

*1 Lin Zhou, et al., 2016: 3D self-assembly of aluminium nanoparticles for plasmon-enhanced solar desalination, Nature Photonics, doi:10.1038/nphoton.2016.75
http://www.nature.com/nphoton/journal/vaop/ncurrent/full/nphoton.2016.75.html

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