未処理排水の農業利用による健康被害のリスクが懸念

2017年7月5日付けのEnvironmental Research Lettersにて掲載された研究論文[1]にて、世界各地で未処理排水が農業用に使用されており、これが人間の健康被害に影響を及ぼすリスクが指摘された。

同研究調査によると、都市から排出された未処理排水が農業用に使用されている割合は、前回の調査結果と比較して50%増加したという。個別の事例に基づき研究成果をまとめた前回調査と異なり、今回の調査では、地理情報システム(GIS)を介して収集したデータを分析するという先進的なモデリング手法が導入され、世界全体における未処理排水の灌漑用途の実態が初めて包括的に検証された。更に、未処理排水が放出された水域の水を灌漑として利用する間接的使用に関しても初めて分析が行われた。未処理排水を水域へ放出することで汚染濃度が希釈化されるものの、汚染物質の大部分は残留することから、間接的使用の場合も健康被害が生じるリスクが明らかとなった。これらの灌漑を目的とした未処理排水や間接的使用はこれまで世界各地で幅広く展開されてきたものの、双方の違いが曖昧であったことから、世界規模でこれらを定量化することが困難であった。

今回の調査報告では、都市部から40キロメートル以内の下流に位置する灌漑地帯、約3590万へクタールの地域において、全体の65%が排水利用による汚染の影響を大きく受けていることが明らかとなった。3590万へクタールのうちの2930万ヘクタールを占める地域では、排水処理が不十分であり、88500万人に上る都市住民や農業従事者・食糧サプライヤなどへ、深刻な健康被害を引き起こすリスクがある。特に、中国、インド、パキスタン、メキシコ、イランといった5つの国では、排水の灌漑利用が顕著である。前回の研究調査では、世界70か国を対象とした個別の事例と専門家の意見に基づき分析され、排水で灌漑された農業地帯の面積は2000万ヘクタールと想定された。しかし、今回の新たな研究調査では、前回の調査結果を大幅に上回る結果となった。

図 都市部から40キロメートル以内の下流に位置する灌漑地帯の割合
(色が濃いほど割合が大きいことを示す)
(出典:A global, spatially-explicit assessment of irrigated croplands influenced by urban wastewater flows)

更に、調査報告では、消費者の安全性を考慮した場合、食料供給網全体を通じて何らかの対策を講じ、国民の健康被害に対するリスクを軽減する必要性が強調されている。その例として、開発途上国では浄水処理施設の容量を拡大するペースが遅いことから、既存排水処理施設の改善、農場や食品の取扱いに関する未然防止策の実行などが挙げられている。また、排水放出量が多く水域汚染が深刻化している地域ほど、農業従事者による未処理排水の利用が高いという。このような状況にある地域や安全な上水が不足している地域では、大量の水を必要とする野菜などの付加価値の高い食料を栽培する農地の灌漑として、排水は信頼性の高い水供給資源として捉えられている。農業従事者は一般的に、他の選択肢がないという理由で未処理排水を灌漑に活用している。しかし、未処理排水には高濃度の栄養素が含まれているため、肥料を購買するよりも同廃水の利用を希望する一部の農業従事者も存在する。

[1] A. L. Thebo et al., 2017: A global, spatially-explicit assessment of irrigated croplands influenced by urban wastewater flows, Environmental Research Letters

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