ナノ粒子で太陽光淡水化の効率を大幅改善へ

少なくとも過去10年のあいだ、太陽光を利用して水を蒸気に変換し、それによって発電タービンを駆動したり淡水化をおこなったりする「太陽熱」技術が、投資家の熱い視線を浴びてきた。およそ6年前、この太陽熱技術にナノ粒子が参入した。ライス大学の研究者らが、冷水にナノ粒子を加え、それを日光に曝して蒸気を得ることに成功したのである。それ以来、フォトサーマル変換と現在呼ばれている分野の多くの研究がプラズモニクスに向かうことになった。プラズモニクスとは、光子が金属表面に当たるときに生じる電子波を利用する技術である。しかし、プラズモニックなナノ構造をつくるのは、単にナノ粒子を水に加えるほど簡単な話でないことは確かである。

こうしたなか、中国の研究者らが、ナノ粒子を水に加えることの容易さとプラズモニクスを組み合わせ、これまでに報告されたあらゆるプラズモニック・ナノ粒子または全誘電体型ナノ粒子をしのぐフォトサーマル変換プロセスを実現した。中国の中山大学の研究者らがScience Advances誌で発表した論文[1]によると、彼らは、日光に曝されたときにプラズモニック的な性質と全誘電体的な性質の両方を示す初めての物質をつくることに成功したとしている。論文の共著者であるG.W. Yang中山大学教授は、このふたつの性質を同時に実現する鍵となったのはユニークな光学的二重性をもつテルル・ナノ粒子を使用したことだと述べている。

テルルのナノ粒子を水中に拡散すると、太陽光による水の蒸発速度が3になる。また、水温を100秒以内にセ氏19度から85度まで高めることが可能である。「テルル・ナノ粒子は、120ナノメートルより小さいとプラズモニックなナノ粒子のようにふるまい、120ナノメートルより大きいと高インデックスの全誘電体型ナノ粒子としてふるまう」とYang教授は言う。研究に使ったテルル・ナノ粒子がプラズモニックと全誘電体型の二重性をもつことができるのは、その大きさが20ナノメートルから300ナノメートルまで幅ひろく分布しているからである。こうして、太陽光のスペクトル全体にわたって吸収率を高めることが可能になった。


テルル粒子の電子顕微鏡写真(左)と粒子の大きさの分布(右)
(出典:The optical duality of tellurium nanoparticles for broadband solar energy harvesting and efficient photothermal conversion)

テルル・ナノ粒子はまた、太陽光によって励起されるとその励起エネルギーがキャリア(電子と正孔)に完全に移行するという性質をもっている。これにより、キャリアは平衡状態からはずれ、それまでより温度の高い特別な運動量状態に移る。Yang教授によれば、系が平衡状態に向かうにつれ、励起されたキャリアは緩和する。すると、キャリアの散乱にともない、クーロン熱化と呼ばれる現象が生じ、熱化されたキャリアの高温ガスが形成され、それがフォノンと結合して余分なエネルギーを格子に放出する。その結果、テルル・ナノ粒子が効率よく加熱されるというわけである。

テルル・ナノ粒子の新製法が必要

上に示したようなアプローチを商業的淡水化に使えるようになるには、液体中でのナノ秒単位のレーザー・アブレーションによってテルル・ナノ粒子をつくるという現在の方法では限界があることをYang教授は認めている。「いま、われわれは他の方法によるテルル・ナノ粒子の作製を試みている」と同教授は言う。

だが一方で、テルル・ナノ粒子がユニークな光学的二重性をもつことから、Yang教授はこの技術を他の分野に応用することも考えている。「テルル・ナノ粒子をセンサーやナノアンテナに応用したい」と同教授は言う。

[1] Churong Ma, et al., The optical duality of tellurium nanoparticles for broadband solar energy harvesting and efficient photothermal conversion, Science Advances, DOI: 10.1126/sciadv.aas9894
http://advances.sciencemag.org/content/4/8/eaas9894

タグ「」の記事:

2019年12月20日
チリの銅開発公社Codelco、丸紅のコンソーシアムが落札していた淡水化プラント建設の入札をキャンセル
2019年10月15日
チリの銅公社Cochilco、2018年度の銅鉱山での地表水、海水、再利用水の使用状況を発表
2019年7月27日
ラテンアメリカ淡水化及び水の再使用協会ALADYR、ペルーでの淡水化推進を強調
2019年7月24日
太陽光蒸気発生システムでほぼ100%の脱塩を実現――モナシュ大学
2019年6月20日
チリの銅鉱山会社AMSA、5億米ドルの淡水化プラントを建設すると発表