中国「海綿都市」関連事業展開の状況

海綿都市(スポンジ・シティ)とは、関連インフラ事業の整備により都市がスポンジのように、環境変化と自然災害に「弾力性」を備え、降水時に吸水性を発揮し水資源を保持できると同時に、必要な時に保持された水資源を放出し再利用するというもので、中国で提案された独特なコンセプトである。近年、中国政府は一連の対策を打ち出し、各地の「海綿都市」の建設事業を重点地域を中心にモデル事業として推進してきた。本稿は2015年以降の中国の海綿都市事業に関する進展および最新の政策・市場動向を解読・分析したものである。

 

1.海綿都市建設の現状

中国の「海綿都市」建設事業は、豪雨に見舞われ、浸水が発生するという中国各都市の抱えている問題を根本的に解決するため、2013年以降に打ち出された総合的な対策である。2015年以降、関連事業は中央政府による直接推進の下、本格的に実施されている。2015年に中国国務院が公布した「国務院弁公庁 海綿都市建設の推進に関する指導意見」に基づき、2015年から2016年にかけて、中国財政部、住房城郷建設部(以下、住建部)、水利部は共同で「海綿都市づくり」対象都市選考を2回行い、30都市が国家級パイロット事業として選定され、国家特別支援制度のもと各都市で海綿都市の建設を行うことになった。

また、地方においても関連事業の展開が推進され、一部の地域では省レベルのパイロット事業を実施し、省レベルの重点都市を指定し、省財政により補助金制度を発足させ、重点都市の海綿都市の建設を支援・促進している。2017年までに中国13省の90都市で、省レベルの海綿都市パイロット事業が行われてきた。それ以外の一部の都市も独自の計画を打ち出し、積極的に海綿都市の建設に取り組んでいる。2017年まで、全国範囲で海綿都市建設専門計画を公布した都市は合計370に達していた。海綿都市の建設は中国国内の広範囲で行われていることがわかる。

結果として、国家レベル、省レベルパイロット事業に選定された都市は2~3年間の建設により、一定の成果を遂げた。新華社の報道によると、2017年4月までに全国海綿都市の総建設面積は420 km2に達し、投資額は544億元に上った。また、財政部、住建部、水利部は30都市に対する海綿都市建設状況を考察した結果、江西省萍郷市、広東省深セン市、山東省青島市などの都市が優れた実績を上げたこともわかった。深セン市の場合は、2018年までに海綿都市関連の竣工済プロジェクトが1361件に達し、海綿都市総面積が104 km2に増加した。また青島市は、2018年5月までに海綿都市総面積が110平km2、建設中の面積が54 km2に達した。萍郷市は雨水収集・利用率が1%から8%まで上がり、2017年の大雨による冠水被害の防止に役立った。

 

2.海綿都市に関する政策(2015年以降)

2015年以降、中国政府は海綿都市の建設事業を推進するために「海綿都市建設の推進に関する指導意見」をはじめ、一連の政策を打ち出し、各地の地方政府も積極的に地方レベルの関連推進策を公布・実施している。

2.1 国家政策

  • 「国務院弁公庁 海綿都市建設の推進に関する指導意見」
    2015年10月、中国国務院は「海綿都市建設の推進に関する指導意見」を公布し、海綿都市建設について「海綿都市の建設により、都市開発による生態系への影響を最小限に抑え、70%の降雨をその場で消化・利用する。2020年までに都市部既成市街地面積の20%、2030年までに都市部既成市街地面積の80%が同目標要求を達成させる」といった目標を明確にした。また、地方政府が海綿都市建設の責任主体であること、住建部および発展改革委員会、財政部、水利部が指導・督促を行うことなどについて規定した。
  • 「海綿都市建設に対する開発性金融支持に関する通知」
    2015年12月、住建部および国家開発銀行は共同で「海綿都市建設に対する開発性金融支持に関する通知」を発表し、海綿都市建設への金融支持政策を明らかにした。本通知では、各レベルの住建部門は国家開発銀行を重点協力銀行とし、協力を強化し、海綿都市プロジェクトの資金を保障すべきであることが明記された。この実施のために、国家開発銀行各支店は資金を活用し、海綿都市建設に協力する。
  • 2016年中央財政支持による海綿都市建設パイロット事業展開支援に関する通知」および「2016年海綿都市建設パイロット事業実施都市リスト」
    2014年の「中央財政支持による海綿都市建設パイロット事業展開支援に関する通知」に続き、2016年2月、中国財政部は「2016年中央財政支持による海綿都市建設パイロット事業展開支援に関する通知」および「2016年海綿都市建設パイロット事業の申請に関する指南」を公開した。このなかで、第2次の海綿都市パイロット事業選考の実施が発表され、申請内容、申請流れ、要求などについて詳しく規定された。その後、2016年4月、「2016年海綿都市建設パイロット事業実施都市リスト」が発表され、下表の14都市が第2次パイロット事業実施都市に選定され、補助金を受けながら海綿都市を建設することができるようになった。2回の選考により、海綿都市パイロット事業の実施都市は合わせて30に達した。

表 海綿都市パイロット事業実施都市(第2次)および主な政策、国家援助金額

都市 主な関連政策 国家補助金額
(億人民元/年)
1 山東省青島市 「青島市海綿都市専門計画(2016-2030年)」 5
2 浙江省寧波市 「寧波市海綿都市建設の推進に関する実施意見」 4
3 福建省福州市 「福州市海綿都市建設プロジェクト計画・建設管理に関する暫定弁法」 5
4 上海市 「上海市海綿都市計画建設管理弁法」 6
5 広東省シンセン市 「シンセン市海綿都市建設管理暫定弁法」 4
6 広東省珠海市 「珠海市海綿都市専門計画(2015-2020年)」 4
7 海南省三亜市 「三亜市海綿都市計画建設管理暫定弁法」 4
8 甘粛省慶陽市 「慶陽市海綿都市建設管理弁法(試行)」 4
9 青海省西寧市 「西寧市海綿都市建設管理規定(暫定)」 5
10 寧夏省固原市 「固原市海綿都市専門計画」 4
11 天津市 「天津市海綿都市建設技術ガイドライン」 6
12 北京市 「北京市人民政府弁公庁 海綿都市建設の推進に関する実施意見」 6
13 遼寧省大連市 「大連市海綿都市建設事業方案」 4
14 雲南省玉渓市 「玉渓市海綿都市建設専門計画(2016-2030年)」 4
  • 「全国都市市政インフラストラクチャー建設『十三五』計画」
    2017年5月、中国住建部と発展改革委員会は「全国都市市政インフラストラクチャー建設『十三五』計画」を公布し、13次五カ年計画時期の都市インフラ建設に関する計画を発表した。その中で「海綿都市建設の加速」は重要任務の一つであり、海綿都市建設事業も重点プロジェクトとして盛り込まれた。
  • 「海綿都市建設評価標準」(GB/T 51345-2018
    2018年12月、中国住建部は「海綿都市建設評価標準」(GB/T 51345-2018)を公布し、2019年8月1日より実施される予定である。本標準では、海綿都市建設の評価内容と基準が明確にされた。評価項目としては、年間雨水流出量抑制率および流出体積(スポンジ体積)のコントロール、路面水溜りのコントロールおよび冠水対策、都市水環境の質、プロジェクト実施の有効性、自然生態構造のコントロールおよび都市水生態岸線の保護、地下水深度の変化傾向、都市ヒートアイランドの改善などが含まれ、さらに具体的な評価要求、数字制限も明記されている。本標準の実施により、海綿都市の建設方針、方法、評価基準などが標準化され、海綿都市の建設および評価事業を行う基準となる。

2.2 地方政策

国レベルのパイロット事業に指定された30都市は、国家補助金を受け、それぞれ関連の実施計画、実施意見、実施弁法などの政策を発表し、海綿都市関連建設事業を実施してきた。一方で、既に述べたように、中国13省の90都市でも省レベルの海綿都市パイロット事業が行われている。その背後には、省レベルの政府が公布した関連政策がある。例えば、浙江省嘉興市と寧波市が国家レベルのパイロット都市に選定された翌年に、浙江省政府は2016年に「全省海綿都市建設の推進に関する実施意見」を公布し、省レベルパイロット事業の展開を行うこととなった。紹興市、衢州市、蘭渓市、温岭市という4つの省レベルパイロット実施都市が事業展開を計画し、それぞれ「海綿都市建設の推進に関する実施意見」、「パイロット事業実施方案」などの政策を打ち出した。その影響を受け、杭州市、温州市、金華市など、パイロット事業に選定されていない都市も政策を打ち出し、積極的に海綿都市の建設に取り組んでいる。

また、江蘇省では「省政府弁公庁 海綿都市建設の推進に関する実施意見」が打ち出され、2016年および2017年の2年連続で4つの省レベルのパイロット事業実施都市を毎年選び、総計9000万元の補助金を実施都市ごとに提供し、海綿都市の建設に取り組んでいる。2017年には同省の無錫市、連雲港市、宿遷市、新沂市、靖江市が第2回目のパイロット事業実施都市として指定された。

 

3.海綿都市建設事業のあり方

海綿都市の建設は大規模建設事業であるため、建設対象の違いにより複数のサブプロジェクトに分けるパターンはあるが、いくつかの地域に分け、プロジェクトを完遂するパターンもある。

国家レベル海綿都市パイロット事業実施都市の上海市の場合、市内パイロット事業の対象面積は79 km2であり、100件余りの具体的なサブプロジェクトが含まれる。生態回廊雨水蓄積浄化模範区、建設済区内海綿プロジェクト建設模範区、湖沼水生態保護浄化模範区など7つの模範区に分けられ、海綿都市建設の異なる需要・特徴を研究・模索する。そのなかで同市の海綿都市事業が集中している臨港モデル区の関連事業実施において、「上海臨港モデル区海綿都市特別計画」を作成した。同計画にもとづく事業目標を達成するためには、投資需要試算としては81億人民元と見積もられている。海綿都市の建設は膨大な資金投資が伴うもので、中国建設部は、1 km2当たりの海綿都市整備費用は約1億人民元~1.5億人民元と試算した。

具体的なプロジェクトの実施について、中央・地方の公的投資以外、民間資本の動員に繋がる官民連携(PPP)方式の応用が政府によって提唱されている。2017年、海綿都市国家パイロット事業実施都市(第2次)への評価が行われ、PPPプロジェクトの運営方式などは評価内容の一部となった。海綿都市の建設におけるPPPプロジェクトの実施にむけて、中国政府がPPPの活用を重視していることがわかる。

表 海綿都市建設PPPプロジェクト実例

プロジェクト名称 社会出資方 投資総額 運営期限 方式
湖南省湘西鳳凰県海綿都市建設PPPプロジェクト シンセン市鉄漢生態環境株式会社 8.8億元 20年 DFBOT
(設計-融資-建設-運営-転移)
天津市解放南路地区海綿都市建設PPPプロジェクト 北京碧水源科技株式会社(連合体) 25.0億元 15年 BOT
(建設-運営-移転)
吉林省松原市海綿都市建設PPPプロジェクト(第一期) 中国建築株式会社(連合体) 59.0億元 25年 BOT
(建設-運営-移転)
山東省日照市嵐山区海綿都市建設PPPプロジェクト(第一期) 山東省財金発展有限会社 11.4億元 23年 BOT
(建設-運営-移転)

 

山東省日照市嵐山区海綿都市PPPプロジェクトの例:

ここで、山東省日照市嵐山区海綿都市PPPプロジェクトを例として、PPPプロジェクトの内容を分析する。同プロジェクトは嵐山区海綿都市建設の第一期であり、2018年1月から行われている。同プロジェクトの投資金額は合計11.4億元に達する。嵐山区住建局による入札が行われ、資産運営会社である山東省財金発展有限会社が落札し、本プロジェクトの民間企業側の出資者となった。日照市新嵐山財金投資グループ有限会社は政府の代表として、山東省財金発展有限会社と共同で新しいプロジェクト会社を設立し、海綿都市の建設を推進する。社会出資方は2億1736万元を出資し、新会社の95%の株を持つ。それに対し、政府側は1144万元を出資し、5%の株を有する。期限は23年であり、3年の建設期間および20年の運営期間となる。

建設内容は主に、スポンジ型道路(吸水性のいい地面)および付属排水配管の整備事業、既存道路の排水配管の整備事業、生態環境総合対策事業、緑化地および公園のスポンジ化事業(降水時の吸水、貯水、浄水機能をもつための整備事業)が含まれ、36件のプロジェクトに分けられている。事業全体としてはBOT方式(建設-運営-移転)を採用し、新会社が政府側と協力してプロジェクトの建設・運営事業を担当し、事業終了後に所有権を政府側に譲渡する。

この嵐山区の海綿都市建設プロジェクトのように、政府側と民間企業側の出資者が共同で新会社を作り、プロジェクトの建設に取り組む事例が多い。

 

 

4.まとめ

2015年以来、「海綿都市」事業は全国各地で積極的に推進され、一部のモデル地域においては既に目に見える成果を上げてきた。一方で、全国範囲としては、集中豪雨など自然災害に耐えずに深刻な浸水災害を受けた都市は依然として少なくない。

海綿都市の建設事業は複数のサブ事業分野から構成され、長期にわたる事業である。上述のように国の「海綿都市建設の推進に関する指導意見」で取り上げた2020年までの目標をクリアするとしても、整備対象は全国の都市部既成市街地面積の20%に過ぎない。したがって、中長期において、中国の関連建設需要は依然として大きく、膨大な需要市場につながり、有力事業分野であるとみられる。