細菌を使って細菌を殺す濾過膜をつくる技術――セントルイス・ワシントン大が開発

いま、世界の10人に1人以上が日常の飲み水へのアクセスに困難を感じ、2025年には世界の人口の半分が、水ストレスに悩む地域で暮らすことになるとみられている。これが、「きれいな水へのアクセス」が全米技術アカデミーの主要課題であるグランド・チャレンジズのひとつになっているゆえんである。この課題の解決に向けてセントルイス・ワシントン大学の研究者らが、バイオファウリング、すなわち細菌その他の微生物による膜の目詰まりで水の流量が低下することを防ぎつつ水を浄化する新たな膜技術を開発した。しかも、こうした濾過膜をつくるのに研究者らが使ったのは、細菌である。

同大学機械工学・材料科学科のSrikanth Singamaneni教授とエネルギー・環境・化学工学科のYoung-Shin Jun教授を中心とした研究チームは、それぞれの知見を持ち寄り、酸化グラフェンと細菌ナノセルロースを使った高効率、長寿命、環境調和型の限外濾過(UF)膜を開発することに成功した。この技術をスケール・アップして実用化することができれば、きれいな水が不足している多くの途上国に利益をもたらすものになるだろう。この研究成果はEnvironmental Science & Technology誌2019年1月2日号のカバー・ストーリーとして発表された[1]

太陽光の吸収熱で殺菌

バイオファウリングは、膜のファウリング全体のおよそ半分を占め、これを根絶するのはきわめて困難である。Singamaneni教授とJun教授は、およそ5年間にわたってこの難題に取り組んできた。両教授は今回の膜に先立って、金ナノスターを使った膜を開発したが、もっと安価な材料で膜をつくりたいと考えていた。

そこで研究チームはまず、グルコンアセトバクター・ハンセニイ菌に糖分を含む物質をあたえ、水中でセルロース・ナノファイバーを形成させた。つぎに、そうして成長しつつある細菌ナノセルロースに酸化グラフェン(GO)の薄片を加えると、ナノセルロースがGOを捕捉して安定した耐久性のある膜となった。GOを加えたあと、膜をベース溶液で処理してグルコンアセトバクターを殺した。このプロセスのなかで、GOの酸素基が失われて還元GOとなった。つぎに研究チームが膜に太陽光を当てると、還元GOの薄片が直ちに熱を発し、その熱が周囲の水や細菌ナノセルロースに吸収された。こうして、皮肉なことに、細菌でつくった膜は細菌を殺す能力ももっていたのである。Singamaneni教授はこう言う。「微生物を含む水を浄化するには、膜のなかの還元GOが太陽光を吸収して膜を加熱し、細菌を殺すことができるという性質を利用すればよい」

大腸菌にも有効

Singamaneni教授とJun教授が率いる研究チームは、この膜を大腸菌に曝したのち、膜表面に光を当てた。光をわずか3分間照射しただけで、大腸菌は死滅した。これは、膜が急速に熱せられて、大腸菌の細胞膜を劣化させるのに必要な摂氏70度以上になるためである。こうして、研究チームは、細菌を殺すと同時に、高い濾過圧をかけた市販のUF膜の2倍の速さで水を濾過できる高品質ナノセルロース・ファイバーの新たな膜を手に入れたのである。研究チームはこれと同じ実験を、還元GOなしの細菌ナノセルロースでつくった膜でおこなったが、還元GOがない場合は大腸菌は死ななかった。

今後の展望

「これはちょうど、微生物を使った3Dプリンティングのようなものだ」とJun教授は言う。「細菌ナノセルロースが成長する過程で、何でも好きなものを加えることができる。われわれは、環境中によくあるのと同様のさまざまなpHのもとで膜のふるまいを観察してきたが、この膜は、GOの吸引濾過やスピンコートでつくった膜と比べてずっと安定している」

Singamaneni教授とJun教授は、従来の逆浸透システムにこの細菌ナノセルロース生成プロセスを使うのにはかなりの困難があることを認めつつ、タオルを巻いたようなスパイラル式モジュール・システムを提案している。これにLEDや、流体の力学的エネルギーを利用するナノ発電機を組み込んで光と熱を発生させれば、全体のコストを下げることができるというのである。

[1] Jian Q., et al., Photothermally Active Reduced Graphene Oxide/Bacterial Nanocellulose Composites as Biofouling-Resistant Ultrafiltration Membranes, Environmental Science & Technology, doi: 10.1021/acs.est.8b02772

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