中国の研究者らが、水から細菌を除去するきわめて効率的で環境にもやさしい新たな方法を開発した。研究チームは、試作したグラフィティックカーボンナイトライトの薄膜に紫外線を当てることで、10リットル(約2.6ガロン)の水に含まれるほぼすべての有害な細菌をわずか1時間で死滅させて水を浄化することに成功した。こうした浄水技術は光触媒殺菌と呼ばれ、従来の塩素殺菌やオゾン殺菌などのエコフレンドリーでない方法に代わる魅力的な方法としてよく話題にのぼり、研究もされてきた。世界が気候変動と水不足の時代に突入しつつあるなか、飲み水を浄化するための環境にやさしい方法をみつけることはきわめて重要である。研究チームの成果をまとめた論文はChem誌に掲載された[1]。論文のシニア・オーサーであるDan Wangはこう述べている。「将来、光触媒殺菌技術を実用化することで、きれいな水の不足と世界的なエネルギー不足を大きく改善することができる」
光触媒殺菌の原理とこれまでの課題
光触媒殺菌の原理はきわめて単純だ。さまざまな材料を水中の光触媒として用いることができる。光を吸収し、特定の波長の光があると水中で起きる酸素反応の速度を上げる(すなわち触媒として働く)物質であればよい。この酸素反応により、活性酸素(ROS)と呼ばれるきわめて微生物殺傷能力の強い分子が生まれる。
そのために使える効率のよい金属触媒はきわめて豊富にあるが、残念なことに、金属触媒では水中に微小な金属が残留してしまう。いっぽう、ナノチューブやグラフェンなどの非金属触媒はより安全ではあるが、金属触媒ほど効率がよくなく、殺菌に必要なじゅうぶんな量のROSを生み出すことができない。北京の中国科学院と江蘇省の揚州大学の研究者らはいま、こうした難点を解消する実用的で効率がよく、しかも毒性のない光触媒をみつけたと考えている。
理想の材料、グラフィティックカーボンナイトライト薄膜
鍵となるのは、光をよく吸収し、細菌を殺すのにじゅうぶんな量のROSを生み出すという性質をすべてそなえた人工の超薄材料である。そうした材料として研究チームが着目したのがグラフィティックカーボンナイトライトで、これは何年か前から、エネルギー貯蔵能力があるのではないかということで注目度を増してきた材料である。研究チームが光だけを使って実験した結果、グラフィティックカーボンナイトライトの薄膜が汚染水を急速に浄化できることがわかった。最初のテストで、50 mlのサンプルに含まれていた大腸菌の99.9999%がわずか30分で死滅した。これは、われわれが現在知っている他の非金属光触媒の最も速いものよりも5倍速い。その上、この反応で一度に消費する触媒の量は全体のわずか10分の1にすぎない。「このすばらしい効率のよさは、最高の金属ベース光触媒の効率に匹敵する」と著者らは書いている。
こうした高効率をもたらす原因は、この材料のユニークな構造にある。研究者らは、グラフィティックカーボンナイトライト薄膜の縁にカルボキシル基とカルボニル基をくっつけ、より多くの電子が縁に引き寄せられるようにした。この構造をもつ薄膜に紫外線と可視光線を当てると、過酸化水素という誰でも知っているROSが効率よく発生した。水の中で、過酸化水素という消毒剤は細菌の細胞壁を破り、細胞内部を破壊して細菌を効果的に殺し、最後には安全な水と酸素とに解離する。
スケール・アップが容易
著者らは、こうしたシステムの最もすぐれた点は大きなスケールでの再現が難しくないことだという。グラフィティックカーボンナイトライトは低コストで容易に合成できるし、システムそのものも単純で制作費もあまりかからない。「触媒にしても、装置にしても、スケール・アップは難しいことではない」とWangは言う。
他のシステムとの組み合わせが必要
これまでの進行は第一歩としてまずまずだが、実験用に試作したものだけでは、他の汚染物質を含む水を浄化するのにじゅうぶんではない。Wangはこう述べている。「浄水には、重金属イオンを取り除き、pHを調整し、残留物を除去するためにほかの装置も必要だ。浄水の要求条件を満たすには、われわれのシステムを他のシステムと組み合わせる必要がある」
[1] ZhenyuanTeng, et al., Edge-Functionalized g-C3N4 Nanosheets as a Highly Efficient Metal-free Photocatalyst for Safe Drinking Water, Chem
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2451929418305722