水と油を分離する膜材料、タフツ大研究チームが開発

人にしても物事にしても意見にしても、相容れなかったり混ざりあわなかったりする場合によく「水と油のようだ」という。だが、この比喩はちょっとおかしい。水と油は混ざり合うことがあるし、いったん混ざり合うと、両者を完全に分離するのがきわめて難しいことがある。環境への石油流出や廃水処理を考えれば、望まれない油を分離して水を自然の状態、すなわち純水に戻すのがいかにたいへんであるかにすぐに思い至るだろう。

この問題の解決をめざして、タフツ大学の工学と物理学の研究者らが、水と油の混合液体から油をすばやく濾し取り、しかもファウリングが起きない低コストの膜を開発し、それを論文にまとめて国連「世界水の日」である3月22日にACS Applied Polymer Materials誌上で発表した[1]

大規模油流出にも対応できる大流量濾過

材料科学の進歩は、対環境汚染の闘いにおいてゲーム・チェンジャーとなる可能性がある。よく知られているように、石油に汚染された水は野生生物や環境に長期にわたって悪影響をおよぼすことがある。これに対処するのに現在使われているのは、その場で油を燃やしたり、オイル・フェンス、オイル・スキマー、吸収材などの機械的手段を用いたりして水の浄化に役立てるという方法である。しかし、実際にはこうした方法は、特に大規模な油流出の場合には費用がかかる上にそれほど効果的ではない。

論文の責任著者であるAyse Asatekinタフツ大学工学部助教はこう述べている。「濾過は単純でエネルギー効率のよい水処理方法であり、油流出への対処においても効果を発揮する可能性がある。分離膜は比較的安価で再使用が可能であり、しかもこれを使った浄化技術はあまり場所をとらない。われわれはそれぞれの専門的知見を持ち寄り、大流量を維持しつつ油を分離することができ、しかも油の堆積によるファウリングが起きない斬新なフィルター材料を開発した」

ハスの葉をヒントに

さいわいなことに、自然界には、同じ材料でも水との相互作用と油との相互作用がきわめて異なる例がいくつかある。「たとえばハスの葉がそうだ」とAsatekin研究室の大学院生で論文の筆頭著者であるIlin Sadeghiは言う。「ハスの葉の表面は疎水性で水を効果的にはじくから、決して濡れることがない。水はただ葉の表面で玉のようになるだけだ。だが、この葉にはまた高い親油性があり、油のような有機液体は垂らすとすぐに葉の全面にひろがる。こうした自然を模することによって、われわれは表面化学と形態学を工学的に応用して、撥水性ときわめて高い親油性を兼ね備えたフィルター材料をつくることができる」

ハスの葉は撥水と親油というふたつのふるまいを、表面が蝋状であるという化学的性質と、表面を覆うナノ構造をもつ繊維組織とを組み合わせることで可能にしている。葉の表面の繊維組織はその微小な隙間に空気を取り込み、水が葉に直接触れにくくしている。すると、水は表面張力が大きいので、小滴になる。ハスの葉のような、表面の化学的性質と、水を油から分離する繊維組織との組み合わせを応用すれば、油を濾過する膜をつくることができる。

油濾過膜の製法

研究チームにはタフツ大学の物理・天文学科のPeggy Cebe教授と大学院生Nelaka Govinnaも加わり、エレクトロスピニング(静電紡糸)と呼ばれる技術を使って、撥水効果のある化学的性質と繊維組織とを組み合わせた材料をつくり出した。濾過膜を製作したGovinnaによると、エレクトロスピニングとは、帯電した液体ポリマーをきわめて細い注射針のようなものから流出させて繊維をつくる技術である。針の先から流れ出たポリマーは乾燥して細い糸になり、その先に置いた板の表面にランダムに降り積もって多孔質の不織布ができあがる。

研究チームが使ったポリマーは、撥水性のあるフッ素原子で覆われた鎖状化学物質で、ランダムに織りなされた繊維が、ハスの葉の表面のように空気を取り込んで水の浸入を最小にしている。いっぽう、油性のものや有機物質は、フッ素で覆われたポリマーを伝って流れ、膜を通り抜ける。Cebe教授はこう言う。「われわれはこの膜材料を、フィルターで通常使われるポリマー・マトリックス――ポリフッ化ビニリデン(PVDF)――と、PFDMAという機能性ポリマーとをブレンドすることによってつくった。ブレンドする機能性ポリマーを変えれば、濾過膜のふるまいを変えることができる」

タフツ大学のチームが開発した濾過膜の場合、機能性ポリマーにはその目的に照らして理想的ないくつかの性質を備えたものが選ばれている。すなわち、油と有機化学物質は添加剤なしにPVDF膜の17倍という速さで膜を通過するが、水は阻止される。油分除去に使うこのPVDF-PFDMA膜は、このように油と有機溶剤を透過させ、水を阻止するが、水を濾過する膜にありがちなファウリングが起きないため、長期的な工業規模の応用が可能である。また、さまざまな機能性ポリマーを添加することによって、フィルターの性質を目的に合わせて調節することができ、油流失により汚染された水の浄化から純水製造にいたるまで、さまざまな用途に使うことが可能である。

[1] Ilin Sadeghi, et al., Superoleophilic, Mechanically Strong Electrospun Membranes for Fast and Efficient Gravity-Driven Oil/Water Separation, ACS Applied Polymer Materials, DOI: 10.1021/acsapm.8b00279
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsapm.8b00279