ニューヨーク州立大学バッファロー校（New York State University at Buffalo）研究者は2019年11月、下水に含有されている薬剤を下水処理施設にて効果的に除去する処理法を特定した。研究の結果、粒状の活性炭を利用した活性炭処理やオゾン処理といった2種類の有望な処理法を活用することで、抗生物質や抗鬱剤などを含んだ様々な薬剤の含有率をそれぞれ95％以上低減できると結論付けた。

今回の研究成果は、“Environmental Science”にて掲載された^[1]。ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究者は、米東海岸に位置する7カ所の下水処理プラントにて使用されている様々な処理法を分析した。分析対象となった合計7カ所のプラントには、商業稼働プラント6カ所と大規模なパイロットプラント1カ所が含まれている。一般的に下水の処理には、微生物を介して有機物を分解する活性化汚泥法が下水処理には欠かせない手法として導入されているものの、抗生物質や抗鬱剤といった薬剤の分解には不向きであった。そのため、同大学の研究者は、下水からの薬剤の除去には、粒状の活性炭処理やオゾン処理が効果的であることを明らかにした。

今回の研究は、ニューヨーク州立大学バッファロー校化学学部Dian Aga教授や同校の博士課程の学生Luisa Angeles氏、ストーニー・ブルック大学海洋大気化学学部の教授兼副学長Anne McElroy氏が主体となり実施された。Aga教授は、「今回の一番の研究成果は、下水処理から純度の高い処理水を生成するには、様々な方法があるものの、（粒状の活性炭やオゾン処理などを用いて）大部分の薬剤を実際に除去できることが明らかになったことである」と述べた。しかし同教授は、既存の処理法（活性汚泥処理法）に依存する下水処理プラントでは、粒状の活性炭やオゾン処理などの先進的な処理法の導入が必要となる場合もある。また、一部の都市では既に同手法が活用されているものの、コストが高額であると指摘した。一方、McElroy教授は、「我々の研究成果によって、活性炭やオゾン処理を含む高度な処理方法が下水から薬剤を除去する上で優れた効果を発揮しうるという事実（証明）が更に裏付けられた」と述べた。またAngeles氏は、「今回の研究成果が、特に水不足の地域や下水処理水の飲用再利用を望む都市にて、将来の（水政策に対する）意思決定へ影響をもたらしうる」と主張した。

今回の研究成果は、環境保全の観点からも重要である。例えば、下水処理プラントから放流される排水に幼虫のゼブラフィッシュが晒されたとしても、その行動に影響を及ぼさないことが実証された。しかし、野生生物への長期的な影響の有無を把握するには更に研究を進める必要があるとした。2017年にAga氏の研究チームが別途実施した調査では、五大湖の一部であるナイアガラ川に生息する多数の魚の脳内に抗鬱剤または代謝された残留物が高い濃度で含有していることが明らかとなった。薬剤が含有した化学物質が長期的に野生動物へ蓄積された場合、その生態系や野生動物の行動への影響は完全に理解されていないのが現状である。

下水処理プラントは従来、有機物質や窒素などの除去を主目的として設計、運用されている。しかし今回の調査や2017年に実施された調査では、高度処理方法の導入を通じて、これらのプラントでも異なる種類の薬剤の除去が可能であることが結論付けられた。

[1] Luisa F. Angeles et al., Assessing pharmaceutical removal and reduction in toxicity provided by advanced wastewater treatment systems, Environmental Science: Water Research & Technology
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2019/ew/c9ew00559e#!divAbstract