米国環境保護庁(EPA)は2016年1月13日、老朽化した下水管の交換、下水処理技術、雨水流出対策など、同国の下水インフラの維持・改善プロジェクトに2710億ドル(約32兆1400億円)が必要であるとする調査結果*1を公表した。この調査は、2012年1月1日時点で計画ないし実施されていた下水インフラ・プロジェクトを調べたもので、2710億ドルという数字は、その時点からおおむね5年間にそれらプロジェクトに必要とされるであろう金額である。調査は、EPA、各州、コロンビア特別区、およびプエルトリコなどの海外領土が共同で実施したものである。調査対象としたプロジェクトは、水質関連の公衆衛生問題の記述とその場所、現地に即した解決策、および費用の詳細情報のあるものに限られる。この調査結果について、EPA上下水道・水環境局のJoel Beauvais局長はこう述べている。「きれいで信頼できる水を得る唯一の方法は、それに見合ったインフラを整備することだ。わが国はこの数十年、下水処理施設や管路の近代化という点でめざましい進歩をとげてきたが、今回の調査で、やり残した仕事がいかに多いかが明らかになった」
2710億ドルの内訳
冒頭に示した2710億ドル(約32兆1400億円)という数字の内訳は以下の通りである(下図)。
図 下水インフラ・プロジェクトに必要な投資額の内訳(単位は億ドル)
(出典:Clean Watersheds Needs Survey 2012)
- 下水の二次処理:二次処理の基準を満たすのに524億ドル(約6兆2000億円)。二次処理では、法律で求められている処理の最低水準を満たすために生物学的プロセスを使用する。
- 高度下水処理:二次処理よりもさらに高度な処理をおこなえるよう下水処理場をグレードアップするのに496億ドル(約5兆8700億円)。高度下水処理により、窒素、リン、アンモニア、金属など、これまで除去できなかったものや有害な汚染物質を取り除くことができる。
- 下水輸送システムの修繕:輸送システムの更生と修繕に512億ドル(約6兆600億円)。
- 下水輸送システムの新設:新たな下水集水システム、インターセプター方式下水道、およびポンプ場の建設に445億ドル(約5兆2700億円)。
- 合流式下水道の越流防止:雨天時に雨水と未処理下水の混合水が周期的に流出するのを防止するのに480億ドル(約5兆6900億円)。
- 雨水管理プログラム:豪雨時における汚染水流出を防止するための構造的な方策と非構造的な方策の計画と実施に192億ドル(約2兆2700億円)。
- リサイクル水の利用:下水再利用のための輸送とさらなる処理に61億ドル(約7200億円)。
資金面でEPAが果たす役割
EPAは2015年1月、水インフラ・回復力資金センターを発足させた*2。これは、州および自治体と協力して、上下水と雨水のインフラの革新的な資金戦略を練ることを目的としている。このセンターは最近、全米の自治体が環境目標を達成するための持続可能な資金調達ソリューションを策定するのを支援すべく、地域ごとの環境資金センターを設置した。資金と技術の両面でのこうした情報提供の試みは、自治体がその土地のニーズに最も適したインフラ・プロジェクトを実施するにあたって、その資金投入を効果的におこなえるようにするためのものである。
EPAはさらに、今回の調査の対象となった各種インフラのニーズを満たすために、実際の資金面での支援もおこなっている。そのひとつが州水質浄化リボルビング基金で、1987年の発足以来、現在までに1110億ドル(約13兆1000億円)以上の低利融資がなされており、2015会計年度だけでも58億ドル(約6900億円)がこの基金から拠出されている。また、アラスカ先住民村落・農村プログラム、インディアン指定地水質浄化プログラム、およびアメリカ・メキシコ国境地帯水インフラ・プログラムを通して申請すると、この基金から助成金をうけることができる。
アメリカの下水処理の現状
1972年に水質浄化法が制定されたころと比べて、現在の平均的アメリカ人ははるかに高水準の下水処理サービスをうけている。1972年から2012年までのあいだに、下水の二次処理の対象人口は約7500万人から9000万人に増え、高度処理の対象人口は780万人から1億2700万人に増えた。また、二次処理未満のサービスしか受けていない人口は、同じ40年間に約6000万人から410万人に減少した。これにより、下水処理場の排出水が流れ込む河川等の水質は劇的に改善された。
*1 http://www.epa.gov/sites/production/files/2015-12/documents/cwns_2012_report_to_congress-508-opt.pdf
*2 EWBJ53号に関連記事有り「米EPAに水インフラ・回復力資金センターを新設」