サウジアラビアの海水淡水化公団(SWCC)はこのほど、淡水化による造水能力を日量850万m3にまで高めることを目標に、2025年までにおよそ800億ドル(約9兆7000億円)を投資する計画を明らかにした。この分野に詳しいある専門家は、建設プロジェクトの調査会社Ventures Onsiteのデータを引用して、SWCCは現在、日量360万m3の水を淡水化によって得ているが、需要の伸びとともに、2025年末にはこれを日量850万m3にまで高める必要があると指摘している。また、他の報告でも、サウジアラビアでの今後の人口増加を背景に水需要が拡大し、それにともなう脱塩水の需要増大を示している(下図)。3つのシナリオが明示されているが、最も悲観的な予測として2040年に年間45億m3以上の脱塩水の需要が生じると報告している。
図 サウジアラビアにおける脱塩水の需要予測
(出典:Domestic water demand in Saudi Arabia: assessment of desalinated water as strategic supply source)
人口の急増に対応して総合的かつ革新的なアプローチが必要
飲用水生産の持続可能な方法の開発へ向けた取組の一環として、サウジアラビアはこれまでに、同国東北部のカフジにおける世界初の太陽エネルギー利用淡水化プラントをはじめ、いくつもの先駆的なプロジェクトの計画を公表してきた。Advanced Water Technologies社とAbengoa社の共同事業体が1億3000万ドル(約160億円)をかけて建設中のこの太陽エネルギー利用淡水化プラントは、2017年に完成予定で、日量6万m3の飲用水を生産してカフジ市に供給し、それにより年間を通して安定した水供給が確保できる見込みである。
しかし、同国において水供給の持続可能性をほんとうの意味で実現するには、水管理への総合的かつ革新的なアプローチが必要だと、Advanced Water Technology社のAbdullah Al Al-Shaikh CEOは言う。同社は、技術開発と投資を専門とするサウジアラビア企業、Taqniaの子会社である。2030年には3910万人に達すると見られる人口の急増と、1日1人あたり約1600リットルという途方もない水の消費量が、サウジアラビア政府をして持続可能な造水の推進と急増する需要の抑制への取組を余儀なくさせているとAl-Shaikhは言う。Al-Shaikhはさらに、こうした取組の一環として、同国の水・エネルギー省が最近、政府機関と民間企業の水道料金の50%値上げを公表したことを指摘している。
国際水サミットでもサウジの水問題がひとつのテーマに
中東では、国際水サミット(IWS)がアブダビ国立エキシビション・センターにおいて2016年1月18日から21日にかけて開催された。これは、Masdar社がアブダビ水・電力公社と共同で主催するもので、上記のAl-Shaikhの発言は、このIWSに先立つイベントでなされた。国際的な水コミュニティの一大行事であるこのIWSでは、世界の水事業のリーダー、学界の権威、革新的な取組をおこなっている企業人らが一堂に会し、持続可能な新戦略と新技術の開発を加速させる方策について話し合うことになっている。また、IWSのプログラムには、サウジアラビアの水部門における最近の進展状況についての特別セッションも設けられている。この特別セッション――IWS国別スポットライト:サウジアラビア――で講演する予定のAl-Shaikhはこう述べている。「サウジにおいて、先細りする供給量と増えつづける需要という問題を解決するのに、技術が大きな役割を果たす。だが、忘れてならないのは、最終的な解決をもたらすのは上流から下流までの水のバリュー・チェーン全体に使われるさまざまな技術の集合体だということだ。画一的なアプローチで解決できる問題など、ひとつもない。われわれはあらゆる方面で同時に事を進めていく必要がある」
絶えざる技術革新が持続可能性の鍵
淡水化や下水処理へのクリーン・エネルギーの利用について、これは水技術のイノベーションの好例だと、Abdul Latif Jameel社のEnergy and Environmental Services部門を率いるRoberto De Diego Arozamenaは言う。同部門は、アブダビで開催される世界未来エネルギー・サミットの主要スポンサーのひとつである。Arozamenaはさらにこう述べている。「造水あるいは浄水の方法、それに電力の使用形態を絶えず改善していくことが、持続可能性を確保するためにはきわめて重要だ。新しい前処理プロセス、ナノテク利用の濾過プロセス、そして電気化学的淡水化技術が、現在開発中であったり、すでに実用化のさまざまな段階にあったりしている。新しい技術のなかには、効率とエネルギー消費の点できわめて有望なものもある。しかし、それが商業ベースで引き合うか、また、持続可能性があるかを、これから検討していく必要がある」
このほか、Arozamenaは、SWCCがエネルギー効率を現在の26ないし27%から54ないし55%にまで倍増させるための取組もしており、この目標を達成すべく、再生可能エネルギーにもますます目を向けるようになってきていることを指摘している。