人間の髪の毛ほどもない微小なマイクロボットを何十万個も使って工業廃水中の有害な重金属を吸収・除去できることが、新たな研究で明らかになった*1。この方法によれば、汚染水に含まれる鉛の95%を1時間で除去することができ、しかもマイクロボットは何回も再利用できる。この方法は、従来のものよりも効果的かつ経済的な重金属除去法となる可能性を秘めている。「この研究は、新たな汚染を引き起こすことなく微量な汚染物質を狙い撃ちして除去できるスマートな浄化システムの開発に向けた一歩だ」と、論文の共著者であるSamuel Sánchezは述べている。Sánchezは、シュトゥットガルトのマックス・プランク知能システム研究所の一員であり、同時にまたバルセロナのカタルーニャ・バイオエンジニアリング研究所およびカタルーニャ高等研究院にも所属している。
水の重金属汚染は、電池や電子製品などの製造業から鉱業や電気めっき業にいたるまで、さまざまな産業活動の共通の問題となっている。こうした産業活動からは、鉛、ヒ素、水銀、カドミウム、クロムなどの金属が排出され、そのすべてが生物の安全や環境をおびやかす。
マイクロボットの動作原理
今回の研究では、それぞれ機能が異なる3つの層から成るチューブ状のマイクロボットによって廃水中の鉛を除去することが試みられた。チューブの外側の層はグラフェン酸化物で、これが水中の鉛を吸着する。中間層はニッケルで、これによってマイクロボットは強磁性体としてふるまうため、運動の方向を外部磁場で制御することができる。内側の層は白金で、これがマイクロボットに自己推進力をあたえている。廃水に過酸化水素を加えると、白金は過酸化水素を水と酸素マイクロバブルに分解し、そのマイクロバブルを後尾から噴出してマイクロボットを前進させる。すべてのマイクロボットが鉛を吸着し終わった時点で、磁場を使ってそれらを集め、水から回収する。つぎに、マイクロボットを酸性溶液で処理して鉛イオンを取り除く(下図)。この鉛は、のちに回収して再利用することができる。また、マイクロボット自体も、鉛のさらなる除去に再利用が可能である。
図 グラフェン酸化物マイクロボットによる廃水中の鉛除去のイメージ
(出典:Graphene-Based Microbots for Toxic Heavy Metal Removal and Recovery from Water)
今後の展望
この技術の将来展望について、論文の共著者Sánchezはこう述べている。「これはスマート・ナノデバイスを環境浄化に応用する新たな試みだ。自前の動力をもつナノマシーンを使って汚染された溶液から重金属を捕捉し、それを望みの場所に運び、さらにそれを放出して『ループを閉じる』――これは工業的利用に向けた概念実証だ」将来は、マイクロボットの群れを自動制御システムによって磁気的に誘導し、さまざまな仕事をさせることも可能だろう。「われわれは、このマイクロボットを拡充して、他の汚染物質にも使えるものを増やしていくつもりだ。また、これも重要なことだが、製造コストを下げ、大量生産することも計画している」とSánchezは言う。
また、この自己推進型のロボットと機能別の層構造という組み合わせは、ドラッグ・デリバリーやセンサーなどの用途に使える同様のマイクロボットへの道をひらくものでもある。
*1 Diana Vilela, et al., 2016: Graphene-Based Microbots for Toxic Heavy Metal Removal and Recovery from Water, Nano Letters, doi: 10.1021/acs.nanolett.6b00768
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.nanolett.6b00768