ペンシルベニア州立大学などの国際チーム、淡水化用グラフェン・コーティング膜を開発――最終目標はスマート膜

ペンシルベニア州立大学材料研究所多機能原子層コーティング・センター(ATOMICセンター)のセンター長や信州大学の研究者などで構成される国際研究チームが、現在のナノ濾過膜よりも強靭でスケーラブルな淡水化用の膜を実現するためのグラフェン・ベースのコーティング技術を開発した[1]。この技術は、造水用ばかりでなく、タンパク質分離、廃水処理、それに医薬品や食品産業向けにも使える丈夫で実用的な膜の開発につながる可能性がある。

これについてペンシルベニア州立大学で物理・化学・材料科学工学を担当するMauricio Terrones教授はこう述べている。「われわれの夢は、高流量、高効率、長寿命、自己修復という特性を兼ね備え、しかもバイオファウリングや無機性ファウリングが生じず、きれいな水が不足している世界の多くの地域で浄水ソリューションを提供することができるスマート膜をつくることだ。今回の研究成果は、この目標に向かう一歩である」

グラフェン・コーティング膜の概要

研究チームが開発したハイブリッド膜は、ポリビニルアルコールで修飾したポリスルホンの骨格支持膜に、グラフェン酸化物と数層のグラフェンの混合物を溶剤に溶かしたものをスプレーで吹き付けてコーティングするという単純な技術を採用している。支持膜がハイブリッド膜全体の強度を高めており、大きなクロスフロー、高圧力、および塩素への曝露に耐えることができる。開発の初期段階でさえもこの膜は、飲用には適さないが農業目的にはじゅうぶんな85%の塩阻止率を示し、色素分子の阻止率は96%に達した。世界のいくつかの地域では、環境を汚染するさまざまな染料が繊維工場などから日常的に河川に排出されている。

塩素は一般に膜のバイオファウリングを緩和するのに使われるが、その一方で、現在のポリマー膜の性能を急速に低下させる。数層グラフェンを加えることには、膜の塩素への耐性を大幅に高める効果がある。


図 酸化グラフェン/グラフェンによるハイブリッド積層膜の構造モデル
(出典:科学技術振興機構[2]

 

今後の課題

グラフェンは機械的強度が高いことで知られ、多孔グラフェンは塩の阻止率を100%にまで高めることができると予想されている。このため、グラフェンは淡水化用膜の理想的材料になる可能性があるが、これを工業規模で生産するには課題も多い。欠陥の抑制や、2次元材料を扱うのに要する複雑な移送技術などである。研究チームは現在、スケーラビリティの問題を克服して安価で高品質な膜を工場生産できるようにすることをめざしている

著者らのコメント

この研究成果はNature Nanotechnology誌で発表された。その筆頭著者であるAaron Morelos-Gomezはこう述べている。「われわれの膜は、ポリビニルアルコールを接着剤として使うことでグラフェン酸化物の水溶解性を抑え、強い水流と高圧力に耐えるようにしている。さらに、グラフェン酸化物をグラフェンと混ぜることで、耐薬品性を大幅に向上させることができた」また、共著者の遠藤守信信州大学教授は、「これは、環境に応じて自己適応できるより効果的でスマートな膜へ向けての第一歩だ」と述べている。

[1] Aaron Morelos-Gomez et al., Effective NaCl and dye rejection of hybrid graphene oxide/graphene layered membranes, Nature Nanotechnology, doi: 10.1038/nnano.2017.160 http://www.nature.com/nnano/journal/vaop/ncurrent/full/nnano.2017.160.html?foxtrotcallback=true

[2] http://www.jst.go.jp/pr/announce/20170829-2/index.html

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