2016年9月16日、アイルランドの国営水道事業者であるIrish Waterが、「国家下水汚泥管理計画 (NWSMP：National Wastewater Sludge Management Plan)^*1」を発表した。この計画は、今後25年間、アイルランド全域にわたって汚泥の管理、処理、輸送、保管、処分手法を標準化すると定めるものである。Irish Waterは、国レベルで下水汚泥の管理手法を標準化することで、効率が向上するとともに、消費者と環境にメリットをもたらすべく絶えず改善を図ることが可能になると説明している。

下水処理場で発生する下水汚泥は、処理時に下水から除去された高エネルギー有機物を主成分とし、下水処理プロセスにおける貴重な副産物である。下水汚泥を安全かつ効果的に再利用・処分するためにはさらに処理が必要となるが、その管理には経済面、環境面での課題が存在している。2014年に法人化されたIrish Waterは、アイルランドの31の地方自治体から上下水サービス業務を委託されている。この業務には、およそ1000箇所の下水処理プラントの運営管理が含まれる。なお、アイルランドでの下水処理レベルの内訳は下図の通りで、人口の7割以上を二次処理でカバーしている。

図　アイルランドにおける下水処理レベルの内訳（人口当量）
（出典：NWSMPよりエンヴィックス作成）

リスク分散のため、バイオソリッド以外の用途も模索

現在アイルランドでは、下水汚泥の98%がバイオソリッドとして農業分野で再利用されており、他に下水汚泥の再利用方法はほとんど存在しない（下図）。NWSMPは、将来のバイオソリッドの用途について、パブリックコンサルテーションで寄せられた2件の意見から非農業作物と家畜餌用の作物用肥料を考えているが、さらにリスク分散のためフィージビリティ・スタディを通じてこの他の用途を探索するという。NWSMPは、全国レベルでの品質保証、モニタリング、報告制度に重きを置いているが、下水処理の品質を保証する完全なスキームができるまでの間、毎年実施すべき監査活動についても記述されている。

図　アイルランドでの汚泥の最終利用先の推移（乾燥重量）（単位：トン）
（出典：NWSMPよりエンヴィックス作成）

また、NWSMPには複数の下水処理場に拠点（ハブ）を設け、このハブを通じて処理場をネットワーク化すること、および処理コストと輸送コストを最適化するためのサテライト脱水場の建設が提案されている（下図）。ハブは、州レベルでの設置が考えられており、可能な限りエネルギーを最大限回収するという。

図　提案されている汚泥管理スキーム
（出典：NWSMPよりエンヴィックス作成）

今後5年ごとに評価、見直し、改訂を予定

NWSMPは5年ごとに見直され、戦略的環境評価（SEA）および適切な評価（AA：Appropriate Assessment）のプロセスが含まれる。現在のNWSMPは2021年に進捗を計測した上で、見直し、改訂されることとなる。見直しにあたっては、これまでの策定プロセス同様、意見募集が行われるという。今回の発表にあたって、Irish Waterのアセットマネジメント責任者であるSean Laffey氏は次のようにコメントした。「国家下水汚泥管理計画には、この極めて重要な問題に対するIrish Waterの戦略的で持続可能なアプローチが示されています。この計画には、策定の初期段階からの広範かつ包括的なコンサルテーション結果が反映されています。汚泥の再利用が農業や農村コミュニティに大きく影響することは明白であり、我々は個人や団体、代表組織の関与に感謝しています。汚泥の効果的な管理を確実なものとするには、出来る限り幅広い視野を持つことが重要です。唯一の国営水道事業者であるIrish Waterには、戦略的で標準化された国家的アプローチを実現するための能力と知見があります。この25年間の戦略には、アイルランドにおいて我々がどのように下水汚泥の管理を改善していくかが定められており、下水処理の品質保証プロセスの導入も含まれています。」

*1 https://www.water.ie/about-us/project-and-plans/wastewater-sludge-management/Final-NWSMP.pdf