UNDP、パキスタンの水事情を発表

国連開発計画(UNDP)は2017年2月上旬、同機関が発行したパキスタンにおける水の安全保障に関する報告書に基づき、同国では人口1人当たりの貯水量が乏しく深刻な状況にあり、問題解決に向けた取り組みが不十分であると指摘した。UNDPによると、人口一人当たりの貯水量はわずか121 m3と、エチオピアに次いで少ない水準にある

UNDPは2016年12月、パキスタンの水事情を分析した「パキスタンの開発支援:同国における水の安全保障、課題と挑戦(Development Advocate Pakistan: Water Security in Pakistan, issues and challenges)」を発行した[1]。同報告書によると、同国では人口1人に対する利用可能な水資源量を2025年までに14.2%増加させる必要があるものの、年々深刻化する地球温暖化の影響等を受け、1990年以降水資源量は低下傾向にある。1990年時点で人口1人当たりの利用可能な水資源量は2172立方メートルであったものの、2015年には1306立方メートルへ減少した。なお、パキスタンでの水需要の内訳は以下の通りで、90%以上が農業用となっている(下図)。


図 パキスタンでの水需要の内訳(2016年)
(出典:Development Advocate Pakistan: Water Security in Pakistan, issues and challenges)

パキスタンでは、人口増加と水需要の急増による地下水の枯渇が深刻化しており、同国における水の安全保障を悪化させる一つの要因となっている。しかし、水資源の確保が困難となる最大の理由は、軍事独裁政権を含めて同国で過去に発足してきた政権が、水の安全保障に対する認識が不足していたことにある。現行政権もまた、国内の水資源の確保を巡り、隣国インドとの水利権争いに敗北を喫している。パキスタン政府は、水資源の確保や発電を目的として、インダス川支流のニールム川にニールム・ジェルム水力発電ダムの建設を進めてきた。しかし、同ダムの工事の遅れにより、インドが同ダムの上流に建設していたキシャンガンガ水力発電ダムが一足先に竣工となった。この影響により、両国間で古くに締結されたインダス水協定に基づき、ニールム・ジェルム水力発電ダムは、最大969メガワットを発電する上で必要となる水量を確保できない状況となった。

また、貯水量の確保増大だけでは、パキスタンにおける水の安全保障問題を解決するには不十分である。現時点において水の損失量も多いため、これを解決すべく、水利用の効率化に向けた取り組みも重要である。利用者への認知度を高めるキャンペーンの実施や水の検針といった料金体系の整備などの双方の措置が必要である。

飲料水の供給状況については、水道による割合が徐々に増え近年では全体の約35%を占めている(下図)。


図 飲料水の供給源別の推移
(出典:Development Advocate Pakistan: Water Security in Pakistan, issues and challenges)

[1] 本報告書は以下よりダウンロード可能である。
http://www.pk.undp.org/content/dam/pakistan/docs/DevelopmentPolicy/DAP%20Volume3,%20Issue4%20English.pdf?download