米国ワシントンDCに拠点を構えるシンクタンクWorld Resources Institute(以下、WRI)は2018年1月16日、インド国内に位置する400箇所以上の全火力発電所を対象とした水需要や水確保の課題等を分析した“Parched Power: Water Demands, Risks and Opportunities for India’s Power Sector[1]”を発行した。インドの電源構成においてその大部分は火力発電で占められているものの、水不足の影響によりこれらの発電所の冷却に必要となる淡水の確保が困難となりつつあり、安定した電力供給が危険に晒されていると、WRIは指摘した。
図 インドでの火力発電所分布と水ストレス
(Parched Power: Water Demands, Risks and Opportunities for India’s Power Sector)
インド国内に立地する、約90%の火力発電所(石炭、天然ガス、石油、太陽熱、地熱、廃棄物燃焼)において、プラントの冷却に淡水が利用されていることがWRIの調査で明らかとなった(下図)。国内の全発電量のうちの大部分がこれらの火力発電所による発電で占められているほか、インド政府は電力未到達地域への電力供給に取り組んでいるため、火力発電所の稼働に必要となる淡水の確保が重視されている。
図 インドの火力発電所での冷却水の利用源
(出典:Parched Power: Water Demands, Risks and Opportunities for India’s Power Sector)
WRIは更に、淡水を必要とする火力発電所のうちの約40%が水確保の問題に直面した経験があるとした。2013年から2016年までの間に、水不足を理由に1回以上操業を停止したことのある大手火力発電事業者は20社にも及び、操業停止による電力販売損失額は合計910億インドルピー以上に達する。水不足を理由とした発電所の停止による発電ロスは全体の5番目で、4年間(2013年~2016年)で30 TWhにのぼった(下図)。インドではまた、2011年から2016年までの過去5年間において火力発電所の発電量が40%増加したものの、水不足を理由に2015年から2016年までの1年間において発電量増加分が20%以上低下した。
図 インドでの火力発電所の予期せぬ供給停止の要因とそれによる発電ロス
(出典:Parched Power: Water Demands, Risks and Opportunities for India’s Power Sector)
インドでは火力発電所の新設に伴う水需要が高まるにつれて、水確保が更に深刻化すると見られている。国内で稼働する全火力発電所のうちの70%のプラントにて、農業や産業セクター、地方自治体との水確保を巡る対立が2030年までに拡大する可能性があると、WRIは指摘している。また、発電セクターにおける水確保の問題は、投資家へのリスクも増大させる。現在乾燥地帯にて立地する火力発電所は水確保が困難となるため、プラントの稼働率の低下を招くリスクがあり、投資回収が滞るといった懸念が生ずる。水確保が困難な地域に立地し冷却に淡水を使用する火力発電所は、水不足のリスクが低い火力発電所と比べて稼働率が平均21%低い。
WRIは、インド国内の火力発電所に対する水不足の解決策として、同発電所を対象とした水消費量データの開示義務付け、水消費量の軽減につながる高度冷却技術の導入、プラント効率性の向上、太陽風力及び風力発電への移行を推奨している。また、環境・森林・気候変動省(MOEFCC:Ministry of Environment, Forests and Climate Change)や電力省(MoP:Ministry of Power)は、プラント効率性を向上するとともに、水集約度を抑制する上限値を設置する既存規制を成立、施行させるべきであると、WRIは提案している。
インドでは、パリ合意に基づき、全電力供給量に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに40%とする積極的な目標が掲げられている。エネルギー効率性基準を施行するとともに同目標値を達成することで、国内火力発電所に必要となる取水量を124億平方メートル削減することができると、WRIは試算している。水確保が困難な地域に優先的に太陽光や風力エネルギーを導入することで、火力発電所の水消費量や二酸化炭素排出量を削減するとともに、レジリエンシー(強靱力)を強化することができる。
[1] http://www.wri.org/sites/default/files/parched-power-india.pdf