オランダ、下水中の残留医薬品の処理に向けて総額3000万ユーロを投資

2018年2月13日にオランダ政府が発表したところによると、同国は今後数年間、清浄な飲料水を確保するため、下水中の残留医薬品の処理に投資していくという。

オランダ国内各地の水管理委員会が下水中の残留医薬品の問題に頭を悩ませる中、内閣は、新しい濾過技術を用いた廃水処理建設のため3000万ユーロ(約39億円)の予算を割り当てた。2月12日、水管理に関する会議に出席したCora van Nieuwenhuizenインフラ・水管理大臣は、この予算を用いた助成金を最初に受け取るのはブラバント州アー・エン・マース(Aa en Maas)地域の水管理委員会だと述べた。アー・エン・マース水管理委員会は、40万ユーロ(約5300万円)の助成金を受け、Aarle-Rixtelに規技術を取り入れた下水浄化施設を建設するという。Van Nieuwenhuizen大臣は次のようにコメントした。「現在、年間14万キログラムの医薬品が我々の水域へと流れ込んでいます。病院や薬局は下水に流れる薬品の量を減らすべく措置をとり始めていますが、これは解決策のほんの一部にすぎません。排水溝や河川における医薬品の残留を防止するためには、下水を濾過する他ないのです。我々は、地域の水管理委員会に対し、3000万ユーロの予算を確保しています。この予算により、意欲ある水管理委員会が新たな下水処理場を建設する手助けをします」

パイロットプロジェクトでは紫外線/過酸化水素法の効果を検証

今回Aarle-Rixtel地域に建設されるパイロットプラントは、紫外線の照射過酸化水素を組み合わせることで水中の難分解性汚濁物を酸化分解する方法を採用する。本プラントで処理された下水はアー川に放出されるが、アー川は飲料水の水源であるムーズ川に合流するため、残留医薬品の濃度は最低限に抑えなくてはならない。今後数年間、アー・エン・マース地域の水管理委員会は、今回採用する紫外線/過酸化水素法が効果的に残留医薬品を除去できるか(最大80%の除去効果を得られるかどうか)を検証することとなる。

背景には医薬品の使用の増加

社会の高齢化に伴って医薬品の使用量は増加を続けており、人体内で分解されたまたは吸収されなかった医薬品が排泄を通じて下水道へと流入している。しかし、現在の濾過施設では下水中の残留医薬品を完全に除去できておらず、これが水域に流入している状況にある。新たな下水処理方法を開発できなければ、残留医薬品が水域の生物を汚染し、ひいては水道水を製造するためのコストが高額になると懸念される。

EnviXコメント

下水中の残留医薬品の問題は世界中、特に先進国で大きな関心事になってきている。例えば、すでに米国では下水に含まれる医薬品等が原因で浅層地下水の汚染が報告されている[1]。スイスでも、医薬品を含む微量水質汚染物質による河川の汚染が進み、そこに棲息する水生生物にとって有害なレベルになってきているという[2]

こういった汚染の実態をうけて、その対策に向けた新たな設備投資の必要性が高まっている。ドイツのエネルギー水道事業組合(BDEW)の発表によると、医薬品、農薬、殺生物性製品の残留物を下水から除去するために必要となる4次処理工程を大規模下水処理場に導入するコストは、欧州全体で1100億ユーロにのぼると試算されている[3]。まさに今回のオランダ政府の発表は、この流れの中で起きた動向のひとつと言え、新たな水処理設備・技術へのニーズが高まっていくものと見込まれる。

そして、世界の水関連企業がこのマーケットを狙っており、米国の水処理大手Xylem社はそのひとつである。同社は、スイスで新たに制定された規制(下水処理プラントに微量汚染物質の除去を義務付けるというもの)を受けて、チューリッヒの下水処理施設にオゾン処理装置を納入した[4]。まさに、環境規制の強化が環境ビジネス市場の拡大につながった一例であり、日本企業にとっても今後注目すべきトピックと言える。

[1] EWBJ52号に関連記事あり「米で下水中の医薬品等が浅層地下水を汚染

[2] EWBJ56号に関連記事あり「スイス、多岐浸入源から排出された微量水質汚染物質による河川汚濁状況を調査

[3] EWBJ64号に関連記事あり「ドイツ、医薬品等残留物の浄水処理に欧州全体で1100億ユーロ超のコストを予想

[4] EWBJ60号に関連記事あり「Xylem、オゾン技術をチューリッヒの下水処理プラントに提供――スイスの微量汚染物質除去新規制に対応

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