米ウィスコンシン州では2025年に新たな水質基準が発効することになっており、同州ラクロス市の下水道当局がその基準を満たすために策定した暫定リン削減計画によると、そのための同市の下水処理施設のグレードアップには2000万ドル(約22億円)が必要になるという。このグレードアップによって、ラクロス市は下水処理場からの排出水に含まれるリンの量を90%削減することをめざしている。リンは、水質汚染の原因物質のひとつとして知られている。
リンの発生源と健康への悪影響
リンが環境に入り込むとき、その発生源はおもにふたつある。ひとつはポイント・ソースと呼ばれるもので、認可をうけた下水処理場などからの排出である。もうひとつは、牧場、畑、芝地、駐車場などからの流出である。ラクロス市のJared Greeno下水処理場長によると、同市の下水処理場はウィスコンシン州を流れるミシシッピ川のリン汚染の最大のポイント・ソースである。
淡水中のリン濃度が高いと、藻類が異常に増殖して水中の酸素濃度を激減させ、一帯が生物の住めない死の水域となる。大量発生した藻のなかには、悪臭を放ち、マット状に水面を覆って水路の妨げとなるものもある。また、毒素を出すものもあり、これは飲み水を汚染して発疹、吐き気と嘔吐、胃痙攣、下痢、筋力低下、肝臓と腎臓の不全、また、濃度がかなり高い場合は死に結びつく呼吸麻痺を引き起こすことがあり、公衆衛生上きわめて問題である。
ラクロス市の下水道に入り込むリンの家庭での発生源は、人糞や動物の糞、庭からの排出水、それに石鹸や洗剤である。ウィスコンシン州はリンを含む芝肥料の使用を2010年に禁止しており、隣のミネソタ州は芝肥料へのリンの使用を2005年に禁止している。また、下水道関連の2017年の報告書によると、産業施設から同市の下水道に流入するリンの大きな発生源となっている企業は、Great Lakes Cheese、City Brewery、およびKwik Trip Dairyである。
2000万ドルを投じて排出水のリン濃度を10分の1に
Greeno下水処理場長によると、ラクロス市の下水処理場では現在、ミシシッピ川への排出水のリン濃度が1リットルあたり1ミリグラム以下になるように下水を処理している。そのために可溶性のリンに有効な生物学的方法と化学的方法を併用して、リンを固形物にした上で除去している。ラクロス市が2000万ドルを投じようとしているのは、現行の処理プロセスを改善するとともに、可溶性でないリンに有効な濾過システムを追加するためである。これをしないと、1リットルあたり0.1ミリグラムという将来の基準を満たすことができないとGreenoは言う。除去されたリン含有固形物は肥料として畑に撒かれる。施肥の量は、含まれる窒素の量によって決まる。Greenoによれば、州は現在のところ、こうした肥料の施肥量をリンの含有量によって制限することはしていない。
リン削減のこの暫定計画には、それが下水道使用料にどう反映されるかの推定値とともに、2019年3月から4月にかけてパブリック・コメントが実施されることになっている。ラクロス市は最終的なリン削減計画を2020年初めまでに州に提出しなければならない。