ベトナム、環境汚染の危険性を理由として染色工場の新規プロジェクト申請を却下

2019年3月26日に現地で報じられたところによると、ベトナムで環境汚染の可能性を理由に新規染色工場のプロジェクト申請が却下された。却下されたプロジェクトは、中国資本のTAL Groupがビンフー省に申請した4つの繊維・染色プロジェクトであり、その規模は合計で合計3億5000万ドル(約392億円)である。却下の理由は以下のとおり。

  • プロジェクトは1日あたり1万1840m3の排水をMay川に放出すると見込まれる。
  • これはMay川の流量の2倍近い量である。
  • 何か問題が発生した場合、およびMay川がこの工場排水を充分に希釈することができない場合には深刻な事態になると専門家が警告している。

同様の事例として2014年にはダナン市が、香港の服飾・繊維グループのプロジェクト(2億ドル、約260億円規模)、および韓国の繊維・染色複合体のプロジェクト(30ヘクタール規模)を却下している。また2018年には、タイニン省がTMTC工業地区 (IZ)における染織分野のアウトソーシングプロジェクトの開発計画を却下した。タイニン省は政府役人の署名付き文書において、TMTC IZがこの繊維・染色産業を受け入れることは認められないと明言した。新規プロジェクトのみならず、既存プロジェクトの拡張も同様に厳しい状況となっている。台湾のEclat Fabrics Vietnam’s は、染色工場の生産規模を10%から100%へと拡大するプロジェクトを申請したが、中央政府、省、および地方当局の承認を得られなかった。

ホーチミン市、ビンズオン省、ドンナイ省、およびバリア・ブンタウ省はいずれも、新たな染色および最終加工プロジェクトの受け入れを制限するか停止することを既に決定している。報告されたところによると、2015年末時点でホーチミン市には繊維・染色産業の企業が50存在するが、汚染を引き起こす産業に対しライセンスの交付を停止する動きが地方当局のなかで広がっている。ドンナイ省では、繊維・染色産業のプロジェクトについては、工業地区内に存在し、廃棄物処理の基準に適合する場合にのみ、承認することとしている。外国直接投資(FDI)を呼び込む大きなアドバンテージを持たない北部のハイズオン省も、今後は繊維・染色を含む6つの製造分野のプロジェクト誘致を行わないことを決めた。

繊維産業において最も汚染度が高いプロセスが染色および最終加工である。これらは、大量の水を使用し、生物化学的酸素要求量(BOD)が高く、かつ多くの有害な重金属や懸濁固形物を含む排水を大量に発生する。世界銀行によると、繊維・染色産業が全世界で1年間に使用される化学物質の4分の1を使用し、かつ、全世界で発生する汚染水の5分の1を排出しているという。ベトナム繊維・アパレル協会のNguyen Thi Tuyet Mai事務局長は、繊維・服飾産業は水源を汚染する産業で2番目に大きなものであり、その排水処理には非常に高いコストがかかるとコメントしている。

なおベトナムでは、2018年11月にVITAS(ベトナム繊維協会)が、国内の繊維産業と水リスクに関する報告書「ベトナム国内における繊維・アパレル産業:水リスクとその解決策(Textile and Garment Sector in Vietnam: Water Risks and Solutions)」を発表した[1]。本報告書は、国内に300万人の雇用を産出し、7000を超える工場を展開するベトナムの重要産業である繊維・アパレル産業が、多くを水資源に頼っていることに鑑みて、業界関係者に対し、水に関連するリスクやその影響、実行可能な解決策について理解を促すことを目的に作成されたものである。

[1] EWBJ69号に関連記事あり「ベトナム、国内繊維・アパレル産業が抱える水リスクについての報告書を公開