ヨーロッパ各国の官民の水道事業者団体の連合体でブリュッセルに本部を置くEurEauは2019年8月29日に声明を発表し、そのなかで、残留性、移動性、および毒性のある(PMT)化学物質が水源に「大きなリスクをもたらしている」ことを示す科学的証拠がますます増えていると警告した。こうした事態への対策としてEurEauは、EUがPMT物質、および残留性と移動性がきわめて高い(vPvM)物質の環境への排出を禁止する規制を設けるべきだと主張している。声明のなかでEurEauはこう述べている。「化学物質の法規制の枠内ではっきりとした手段を講じれば、われわれは水源中の短鎖ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS類)に対処することができるだろう。PFAS類はPMT物質やvPvM物質のなかでも水源中に最もよくみられるもののひとつだ」
浄水技術面でのPFAS類除去の問題点
容器包装材や調理器具のノンスティック・コーティングなどに使われるPFAS類は、PMTやvPvMの性質を呈する傾向が最も高い物質のひとつで、水にきわめて溶けやすい上に分解しにくく、しかも現在の浄水方法では効果的に取り除くのが困難である。また、これを除去するのに逆浸透技術を使おうとすると巨額の投資が必要となり、水道水のコストが1m3あたり1ユーロ(約120円)上昇することになる。
各国の動きとEurEauの主張
ヨーロッパ各国の環境大臣らは最近、化学物質がもたらす幅広いリスクに対処するための一致協力した取組を要求した。この要求には、ヨーロッパ委員会に対して「必要不可欠な場合を除いてPFAS類を一切使わないようにするための行動計画の策定」を求める内容も盛り込まれており、水道事業者らもこれを歓迎している。PFAS類は、高血圧、低出生体重、癌などのさまざまな疾病との関連が指摘されてきた。北欧閣僚理事会は、ヨーロッパにおけるPFAS類への曝露に起因する医療コストは年間520億ないし840億ユーロ(約6兆2000億~10兆円)と見積もっている。北欧閣僚理事会は2019年3月に公表した報告書でこう述べている。「PFAS類への曝露に関連した健康への影響がますます増加する傾向にあり、そうした影響がバックグラウンド・レベルの曝露でも生じることを示す証拠が増えてきている」
EurEauはPFAS汚染の一例としてオランダでの出来事を挙げている。オランダでは、化学品メーカーのDuPontが長鎖ペルフルオロオクタン酸(PFOA)の生産をやめてその代わりにGenXという短鎖タイプのPFASの生産を始めたが、そのGenXが水道水を汚染していることがわかり、世論の激しい反感を買った。ヨーロッパ化学品庁は最近、こうした物質のひとつを高懸念物質に指定している。
EurEauは、現在見直しが進められているEUの水枠組指令が加盟国に対し、上水供給に必要な浄水処理のプロセスを減らせるよう河川湖沼への「必要な保護措置」を講じることを求めていると指摘している。
EurEauはまた、EUの最も重要な化学物質規制であるREACHが、有害である可能性のある物質の移動性に現状では対処できていないことを指摘し、「汚染化学物質が水源に入ることを防ぐためのじゅうぶんな防止策、モニタリング手段、および罰則を整備するための」立法措置を要求している。