ベトナムにおける水資源に対する規制は、環境保護全般を定めた法律である環境保護法(55/2014/QH13)に加えて、水資源管理全般に関する水資源法(17/2012/QH13)が存在する。
環境保護法(55/2014/QH13)は、以下の章において水資源に関する様々な規定を定めている。
表 環境保護法における水資源管理
章 | 名称 |
---|---|
6 | 水、土、大気の環境保護 第1節 河川水の環境保護 第2節 その他の水源の環境保護 |
9 | 廃棄物管理 第4節 廃水管理 |
まず第6章では、「河川」および「その他の水源」の環境保護原則を定めている。現在汚染が目立っている河川の環境管理については、河川流域の省レベルの人民委員会は、その水環境を保護するために、以下の責任を有する(第54条)
(1) 河川への排出源の情報の公開
(2) 排出源に対する防止と検査活動
(3) 河川の負荷許容量の評定
(4) 河川流域の汚染による損失の評定および汚染の処理
(5) 河川流域の環境保護提案の策定、実施
一方で、省や国境をまたぐ場合については、中央政府である天然資源環境省がその管理責任を担う。
河川以外のその他の水源については第6章第2節で規定されるが、このうち「地下水」の環境保護については厳格である(以下に挙げる項目の通り)(第58条)。
(1) 地下水の探査、採掘においては、関連当局が公布したリストで規定される化学物質のみ、使用が許可される
(2) 地下水の探査、採掘、井戸の掘削による地下水汚染に対して防止施策を講じる。地下水採掘機関は、探査、採掘エリアの環境改善に対して責任を負う。使用済みの探査ボーリング坑や採掘用ボーリング坑については、地下水を汚染しないよう、適切な技術基準に従い再び埋められる。
(3) 有害化学物質や放射性物質を使用する生産、経営、サービスの事業者は、それらの地下水への漏出や拡散に対して、防止策を講じる
(4) 化学物質保管庫、有害廃棄物処理場、埋め立て場は、法律の規定に従い、技術安全を確保して建設し、有害化学物質が地下に染み込まないよう適切な施策を講じる
(5) 地下水を汚染した組織、個人は、それらの汚染について処理する責任を負う。
次に、第9章は「廃棄物管理」を定めているが、その中の第4節(第99条~第101条)にて「廃水管理」に対する一般要件が規定されている。各種事業(生産活動を含む)において発生する廃水は、ベトナムの環境技術基準を満たすよう処理されなければならない(第100条)。また、廃水処理システムに関する要件は次の通りである(第101条)。
(1) (1) 以下に示すものは廃水処理システムを設置しなければならない;
- 集中生産、経営、サービス地区
- 複合職業村
- 集中廃水処理システムに接続していない生産、経営、サービスの事業所
(2) 廃水処理システムは以下の要件を満たさなければならない;
- 処理しなければならない廃水の種類に応じた適切な技術
- 廃水量に対して十分な処理能力
- 環境基準にしたがった廃水処理
- 検査、監督に便利な排出口の設置
- 継続的な稼働
(3) 廃水処理システムの管理者は、処理の前後において定期的な測定を実施しなければならない。管理者は測定データを保管し、廃水処理システムの検査の根拠とする。
(4) 環境に有害な影響を与える可能性のある大量の廃水を排出する生産、経営、サービスの事業所は、天然資源環境省の規定に従い、廃水の自動監視を実施し、そのデータを所管当局に報告しなければならない。
なお、具体的な水質基準や排水基準については、後述する各種の技術基準(QVCN)で規定される。
いっぽう、水資源管理についてのみ定める水資源法(17/2012/QH13)であるが、こちらは2012年に全面的に改正された(1998年に公布された水資源法(08/1998/QH10)に替わるものである)。全10章79条から構成される新たな水資源法は、ベトナム国内の水資源の管理、保全、開発、利用、および水害への対策、克服について規定するものである。ただし排他的経済水域および大陸棚での地下水、海水および鉱水、天然の温水は、同法の管轄対象外となっている。水資源法の各章の構成は以下の通りである。
表 水資源法の構成
章 | 名称 |
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1 | 一般条項 |
2 | 水資源に関する基本調査と戦略的計画 |
3 | 水資源の保全 |
4 | 水資源の開発および利用 |
5 | 水害への対策および克服 |
6 | 水資源に関する財源 |
7 | 水資源に関する国際関係 |
8 | 水資源管理に関する責任 |
9 | 水資源に関する特別調査 |
10 | 実施規定 |
上記の法律以外に、技術基準(QCVN)としてベトナムの水質基準および排水基準を定めたものは以下の通りである。
表 水質基準に関するベトナム技術基準
名称 | 基準 | |
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1 | 地表水の水質環境基準 | QCVN 08:2008/BTNMT |
2 | 沿岸水の水質環境基準 | QCVN 10:2008/BTNMT |
3 | 地下水の水質環境基準 | QCVN 09:2008/BTNMT |
4 | 産業排水基準 | QCVN 40:2011/BTNMT |
5 | 家庭排水基準 | QCVN 14:2008/BTNMT |
6 | ゴム加工産業からの排水基準 | QCVN 01-MT:2015/BTNMT |
7 | 水産食品加工業からの排水基準 | QCVN 11:2008/BTNMT |
8 | パルプ紙産業からの排水基準 | QCVN 12-MT:2015/BTNMT |
9 | 繊維産業からの排水基準 | QCVN 13-MT:2015/BTNMT |
10 | 固形廃棄物埋立処分場からの排水基準 | QCVN 25:2008/BTNMT |
このほか2015年には、「節水および水の効率的な利用へのインセンティブに関する政令54/2015/NĐ-CP号」が新たに公布されたが、この法令では水の再利用、雨水の収集、塩水の脱塩、節水設備の製造および輸入に対する融資の優遇、および、税金の減免などを規定している*1。このため、今後ベトナムでは再生水や淡水化に対する需要が伸びていくものと見込まれる。
*1 EWBJ55号に関連記事有り「ベトナム、節水と水の効率的な利用に関する政令を制定――水の再利用や節水設備などに対してインセンティブを付与」