本稿は中国国家海洋局のWEBサイトにて2015年8月5日に公開された「2014年全国海水利用報告書」をEnviXが翻訳したものです。
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二、海水の淡水化
(一)プラント規模
全国の建設済み海水淡水化プラントの淡水化量は、ここ数年、着実な増加を遂げている(図1)。2014年末現在、建設済み海水淡水化プラントは全国で112ヶ所(付表1)に及び、1日当たりの淡水化量は92万6905トンに達している。そのうち9ヶ所は2014年に新設されたプラントで、それにより増加した1日当たりの淡水化量は2万6075トンである。
図1 全国の海水淡水化プラントによる淡水化量の増加図
2014年末までに、全国で建設された1万トンクラス以上の海水淡水化プラントは27ヶ所で、1日当たりの淡水化量は81万2800トン、1000トンクラス以上かつ1万トンクラス以下のプラントは34ヶ所で、1日当たりの淡水化量は10万4500トン、1000トンクラス以下のプラントは51ヶ所で、1日当たりの淡水化量は9605トンである。そのうち最大プラントの1日当たりの淡水化量は20万トンに達している。
(二)地域分布
2014年末現在、海水淡水化プラントは沿岸部の9つの省や市に分布しており(図2)、主に水資源の不足が深刻な沿岸部の都市や島に建設されている。北方地区は大規模な工業用の海水淡水化プラントがメインで、天津市、河北省、山東省などの地域の電力、鋼鉄など水消費量が多めの産業に集中している。南方地区では、島に建設された民間用の海水淡水化プラントが多数を占めており、主に浙江省、福建省、海南省などに分布している。その大部分は100トンクラスや1000トンクラスのプラントである。
図2 全国沿岸部の省・市における海水淡水化プラントの分布図
2014年末現在、それぞれの地域の海水淡水化プラントによる1日当たりの淡水化量は以下の通りである。天津市317,245トン、河北省167,500トン、山東省165,205トン、浙江省141,495トン、遼寧省87,664トン、広東省30,820トン、福建省10,931トン、江蘇省5,100トン、海南省945トン。島嶼地区の海水淡水化プラントの1日当たりの淡水化量は98,350トンで、主に浙江省、山東省、遼寧省、海南省に分布している。
(三)技術の進展と活用
逆浸透法(RO)、低温多重効用法(LT-MED)および多段フラッシュ(MSF)という海水淡水化技術は、すでに世界で商用化され広く用いられている淡水化技術である。中国では、逆浸透法や低温多重効用法が確立されており、関連する技術も世界で先進的といえるレベルにまで達しているか、またはそれに近づいている。
2014年末の時点で、逆浸透法技術を利用しているプラントは全国で99ヶ所、1日当たりの淡水化量は599,615トンで、全体の64.69%を占めている。低温多重効用法技術を利用しているプラントは11ヶ所、1日当たりの淡水化量は321,090トンで、全体に占める割合は34.64%である。多段フラッシュ技術を利用しているプラントは1ヶ所で、1日当たりの淡水化量は6,000トン、全体に占める割合は0.65%。電気透析技術を利用しているプラントは1ヶ所で、1日当たりの淡水化量は200トン、全体の0.02%を占めている。図3は、全国の海水淡水化プラントにおける技術利用状況の分布を表した図である。
図3 全国の海水淡水化プラントにおける技術利用状況の分布図
2014年、中国では海水淡水化技術や設備の研究開発および成果の実用化事業が積極的に推進された。国家科学技術支援計画プロジェクトである「単一設備により1日当たり3万トンの水・電力を同時生産する低温多重効用法技術を利用した海水淡水化技術一式とそのモデル」プロジェクト、海洋公益性業界の科学研究特定事業である「島嶼での多元統合型給水技術の研究と活用モデル」、「高い耐塩素性および耐生物汚染性を持つ逆浸透膜の作製技術や活用モデルの研究」プロジェクトも正式に始動し、膜蒸留、正浸透、グラフェン膜などの新技術も現在研究が行われている。また、中国で設計・建設され、国内初となる1日当たりの淡水化量12,500トンを誇る浙江省六横島の海水淡水化第2期プラント、1日当たりの淡水化量が5,000トンに達する江蘇省大豊市の独立電源風力発電・海水淡水化モデルプロジェクトの第1期プロジェクトの建設も開始された。浙江省、江蘇省、天津市などでは、海水淡水化用高圧ポンプ、逆浸透膜などの設備の国産化に関する研究・開発および生産が積極的に進められている。
技術の進歩と発展を加速するため、海水淡水化関連事業に従事する機関が共同で、成果実用化拠点または研究開発実験室を設置した。成果実用化拠点については、国家海洋局天津海水淡水化・総合利用研究所と江蘇巴威工程技術株式会社が共同で建設した江蘇省の「小型プレート式海水蒸留法による淡水化の成果実用化拠点」、「プレート式熱交換淡水化装置の揚中市試験測定拠点」が正式に発足し、六横水道事業有限会社の海水淡水化工場に、中国電力建設グループ華東現地調査研究院有限会社の海水淡水化プラント技術実験拠点が設置された。江蘇省大豊港経済開発区と哈爾浜(ハルビン)電気グループ発電設備国家工程研究センター有限会社は、「新エネルギーによる海水淡水化の主要技術の研究開発および設備製造拠点建設における戦略的提携の合意」を締結した。研究開発実験室の分野では、中工国際子会社北京沃特爾技術株式会社と中国石油化工株式会社(シノペック)撫順研究院が、国内初となる正浸透技術を採用した「工業廃水排出ゼロおよび海水淡水化・総合利用実験室」を共同で立ち上げた。北京首鋼国際工程技術有限会社と北京賽諾水道事業有限会社、北京賽諾膜技術有限会社は、「海水淡水化・処理プラント実験室」を共同で設置。島嶼で使用可能な海水淡水化技術・設備シリーズプロジェクトが2014年度の海洋科学技術賞で2等賞を受賞し、「1,000トン規模のエネルギー回収付帯設備の開発」プロジェクトは浙江省科学技術進歩賞で2等賞、杭州市科学技術進歩賞で1等賞を獲得した。
(四)淡水化された海水の用途
全国の海水淡水化プラントで生産される水の最終的な利用形態は、主に工業用水と生活用水に分けられる。首鋼京唐鋼鉄、天津大港新泉、遼寧紅沿河などの海水淡水化プラントで生産される水は工業用水として使用され、浙江六横島、海南晋卿島、永楽群島などの島の海水淡水化プラントは生活用水を供給している。
2014年末現在、工業用水として利用される海水の1日当たりの淡水化量は587,260トンで、全体の63.35%を占めている。以下はその内訳である。火力発電27.42%、原子力発電2.37%、化学工業11.87%、石油化学13.60%、鋼鉄8.09%。生活用水として使用される海水の1日当たりの淡水化量は339,405トンで、全体に占める割合は36.62%、緑化などその他の用途に使用される海水の1日当たりの淡水化量は240トンで、全体に占める割合は0.03%となっている。図4は、全国の建設済み海水淡水化プラントで生産される水の使用状況の分布を表した図である。
図4 全国の建設済み海水淡水化プラントで生産される水の使用状況
実際の運用では、プラントで生産される水の用途に応じて、海水淡水化プラントの生産状況もそれぞれ異なる。島の住民に水を供給する海水淡水化プラントの場合、毎年の降水量が異なるため、住民の需要に応じて生産量を調整している。工業用の海水淡水化プラントの場合、実際の淡水化量は設計規模の60%~70%に達している。都市に公共用水を供給する海水淡水化プラントについては、供給者と使用者の結びつけを積極的に進め、複数のターゲット層からなる利用者を開発し、配水管などの敷設を早め、水の輸送や利用効率の向上を図ったことにより、実際の生産量はある程度向上した。2014年には、天津国投北疆発電所から漢沽龍達浄水場、開発区泰達浄水場、塘沽新区浄水場までの全長46キロに及ぶ給水配管がつながり、現在、塘沽新河浄水場までの配管工事が進められている。江蘇省独立電源風力発電所の海水淡水化プロジェクトでは、生産した水のボトルの注入や同ボトル品の販売業務が実施され、1時間当たり24,000ボトル製造する生産ラインが完成している。
天津国投北疆発電所の海水淡水化プロジェクト
天津国投北疆発電所海水淡水化プロジェクトは低温多重効用海水淡水化技術を採用し、熱効率を45.16%から55.70%に高めた。造水比は15であり、濃縮塩水の排出濃度は6ボーメ度である。年間100万トンの濃縮塩水を利用し、22 km2の塩田用地を減らす。同プロジェクトは国家初回循環経済試験点プロジェクトおよび模範プロジェクトの下部プロジェクトであり、現在中国国内で建設された最大の海水淡水化プロジェクトである。初となる25,000トン/日の海水淡水化装置が2009年10月26日に出水に成功した。2013年10月17日、200,000トン/日の海水淡水化装置はすべて稼働開始した。生産した水のうち20,000トンを発電所が使用し、180,000トンを社会に供応する。2010年10月から、生産した水は浜海新区漢沽龍達浄水場を通して市政供水管網に輸送され、毎年浜海新区の開発建設に6,500万トンの淡水を提供する。
(五)コストとエネルギー
海水淡水化による水の生産にかかる主なコストには、投資コスト、運用維持コスト、エネルギー消費コストが含まれる。運用維持コストには、補修、薬剤、膜交換、管理、人件費に関連したコストが含まれている。エネルギーや人件費などの価格変動の影響を受け、大部分の水生産コストは1トン当たり5~8元となっており、世界のコスト水準に近づいている。そのうち、10,000トンクラス以上の海水淡水化プラントの1トン当たりの平均コストは6.37元で、1,000トンクラスの海水淡水化プラントでは1トン当たり平均8.44元となっている。
全国の建設済み海水淡水化プラントでは、電力が主なエネルギーとして使用されている。電力をエネルギーとしている逆浸透法を用いた海水淡水化プラントのうち、国家電網会社が電力を供給しているプラントは全体の55.88%で、自工場の発電設備により電力を供給しているプラントは全体の44.12%を占めている。低温多重効用法や多段フラッシュを用いた海水淡水化プラントでは、主に電力と蒸気を組み合わせたエネルギー利用方式が採用されており、電力や蒸気は協力発電所から供給される。2014年には、海水の淡水化と再生可能エネルギーを組み合わせた技術が新たな進展を見せ、1日当たりの淡水化量が5,000トンに達する独立電源風力発電所の海水淡水化プラントが江蘇集大豊市に建設された。
江蘇大豊独立電源風力発電所の海水淡水化プラント
江蘇大豊独立電源風力発電所の海水淡水化プラントは、風力発電と海水淡水化技術を結合し、資源の転換およびエネルギー利用を実現した。同プラントの敷地面積は約73,333 m2で、設計上の造水容量は10,000トン/日であり、投資総額は2.35億人民元である。主に、独立電源風力発電システム、取水および予備処理システム、海水淡水化システムおよびボトルへの注入システムを含む。同プラントは2013年6月に建設開始し、2014年3月15日に第1期5,000トン/日の海水淡水化プラントが建設された。
(六)プラントの取排水
中国の海水淡水化プラントの取排水口は、主に遼東半島東部海域、渤海湾海域、山東半島北部および南部海域、舟山群島海域、浙中南海域、南シナ海海域に分布しており、その多くは港の水上輸送エリア、工業および都市用海区、特別利用区に位置している。プラントの海水利用形式については、大部分が取排水口を海に設置するという形で、一部のプラントでは工場地区建設用の海岸埋め立て地として、また、貯水池、沈殿池などのために海が利用されている。海水淡水化プラントで主に用いられている取水の手段は、岸辺、配管や既存の取水施設による取水で、一部では海岸井戸、潮汐、真空サイフォンなどが利用されている。取水距離は30 m~3500mとそれぞれ異なるが、大多数は100~300mとなっている。濃縮海水の排出方法は、海に直接放流したり、海水と混合させてから海に放流したりするなどで海に排出する方法、総合利用や温海水による養殖などに再利用するという方法の2つに分けられる。