コピー機のトナーというと、どう見ても水の浄化に役立つという印象はうけないが、じつは最近、Xeroxのトナー技術を浄水に使う試みが注目されている。これは、Xeroxの100%子会社のPalo Alto Research Center(PARC)が考案したもので、コピー機でトナーの粉を表面に沿って移動させる静電技術を使い、水に混入している粒子を除去する。
当初この技術は、炭疽菌胞子など生物兵器の粒子を1ヵ所に集めて検出を容易にする技術として軍事面での応用が考えられていたが、ここにきてそれが水の浄化にも有効なことがわかったのである。PARCはこの技術を使った浄水装置を開発しており、これを自治体の浄水場などに導入すればコスト削減がはかれるという。
PARCのScott Elrodクリーン技術プログラム部長によると、この新技術を使った浄水装置では、螺旋状の水路に水を通し、混入している粒子を遠心力で分離する。化学薬品、フィルター、膜といったものはいっさい使わず、膜技術による粒子除去よりも消費エネルギーが少ないほか、自治体の浄水場で現在使われているシステムよりも小型化が可能である。
PARCでは、毎分100リットルの水の浄化処理をこの装置で行なえることを実証したいとしている。「これが実証できれば、採算性がはっきりする。近い将来、この実証試験をするつもりだ」と同部長はいう。
同社のMark Bernstein社長は、この実証試験が終わりしだい、SiemensやGEといった自治体向けに浄水機器をすでに供給している大手総合水処理企業と提携して、この技術を市場に出したいと述べている。
ただし、この技術ですべての不純物を水から取り除けるわけではない。そのため、化学物質、ウイルス、および5ミクロン以下の粒子を除去するべつの技術と組み合わせて使う必要がある。だが、Elrod部長によれば、除去できる粒子の大きさは最小1ミクロンにまで小さくできる見通しだという。
この技術には、もうひとつ制約がある。それは、自治体の浄水場や工業用浄水などのように、流量が一定でなければならないという条件がつくことである。したがって、一般家庭での利用や、途上国のハンド・ポンプなどに取り付けて使うには適さない。
自治体の浄水場で使う場合にも、問題はまだいくつかある。そのうち最大の問題は、藻類などが詰まる「バイオファウリング」に対処しなければならないということである。「これが大ヒット商品になるためには、清掃やメンテナンスなしに長期間稼働しつづけられることが必要だ。取り扱いが簡単なのが、この装置のセールス・ポイントのひとつだからだ。長期使用するとどうなるかという問題については、われわれはまだデータをもっていない。これは、提携先といっしょに解決すべき問題かもしれない」とElrod部長はいう。
それでも同部長は、この技術で低コストかつ信頼性の高い製品が実現できることを確信しているとの考えを示した。
このほか、課題としては、複雑なヴァリュー・チェーンや、市場が規制に強く依存しているといった問題がある。すでに市場での地歩を確立している企業との提携をPARCが考えているのは、このためである。Elrod部長は、提携先として候補に挙がっているいくつかの企業との話し合いを「きわめて近い将来に」はじめるとしている。