ノルウェーの最大手研究開発企業SINTEF(本社:Trondheim)は2007年11月2日、水を超純水にまで純化するまったく新しい技術を開発したことを明らかにした。この技術の実用化には、SINTEFのスピンオフ企業ECOWAT AS(本社:Trondheim)があたっている。
SINTEFが開発したこの新技術は、これまでの水の純化の原理を逆転させたものだ。通常、水の純化には、濾過から蒸留にいたるさまざまな技術によって流体の流れから不純物を取り去るというプロセスが用いられる。しかし、ECOWATが実用化にとりかかっている新技術は、これの逆を行く。つまり、汚染された水から純粋な水分子だけを取り出すというのである。
「これまでの純化方法の場合は、水に残留している汚染物質が少なければ少ないほど、それを完全に取り除くのがたいへんになる。しかし、われわれの技術にはこの問題がない。残留している汚染物質が少なければ少ないほど効率がよくなるのだ」と元SINTEFの科学者Tore Skjetneはいう。Skjetneは、この新しい水純化法のもとになったアイディアの「生みの親」で、現在はECOWATの代表取締役を務めている。
また、家庭から流出してくる洗剤にしろ、サイロで発生する蟻酸や油井の水に含まれる油分にしろ、水溶性の汚染物質はこれまでずっと、水の純化処理にたずさわる者の頭痛のたねだった。現在でも、そのような化合物を除去するにはきわめて大がかりな装置が必要となる。そうした汚染物質を含む水から、製薬、食品、化粧品業界などが求める高純度の水を得ようと思えば、エネルギー集約型の蒸留が唯一の方法だった。
しかし、ECOWATが実用化を進めている新技術は、より小型でエネルギー消費も少ないシステムを使用するため、こうした問題がない。ECOWATはまず手はじめに、技術的な理由から超純水を必要としている産業顧客に的を絞って実用化を進めていく考えだ。
この水純化法の基本プロセスは、水分子から氷に似た固形物を構成することである。だが、その固形物は氷に似てはいるが通常の氷とはちがう。通常の氷であれば、すぐに結晶が成長して大きくなり、しまいには水純化システムのパイプをふさぎ、流れをとめてしまう。
ところが、SINTEFが開発した方法は、水の分子がガス・ハイドレートを構成できるという性質を利用している。ガス・ハイドレートは、特定の温度と圧力の条件のもとでガスの分子が水の分子に遭遇すると形成される。SINTEFの水純化技術では、汚染物質を含む高圧低温の水に二酸化炭素ガスを吹き込んでいる。
氷と同様に、ハイドレートも結晶である。結晶は、純化技術ではおなじみのもので、不純物のはいり込む余地のない規則正しい分子配列の構造をもっている。水と二酸化炭素の分子は、いっしょになってごく小さな球状の雪の結晶をつくる。ただし、この雪の結晶には、内部に小さな水滴がとじこめられているということがない。すなわち、ハイドレートは乾いた雪の一種といってもよい。乾いた雪は、雪だるま式に大きくなることはなく、したがって、水純化プラントのパイプを詰まらせることもない。
つぎのステップは、「ハイドレートの雪」と汚染された流体との分離である。これには、たとえば遠心分離を使う。分離されたハイドレートの雪が融けるとき、ほとんどの二酸化炭素は蒸発する。蒸発した二酸化炭素は再利用することができる。
この技術の最初の実用化としてECOWATがめざしているのは、沖合施設におけるガス・タービン用の純水の製造で、これによって温室効果ガスの排出を削減するねらいがある。また、微小な水滴から成る蒸気でガス・タービン内の燃焼温度を下げることができれば、発電能力をいささかも減じることなく、環境にわるい窒素酸化物の排出を70%ないし80%も削減することができる。このために使う水は、超純水でなければならない。不純物があると、それがタービン・ブレードに焼き付き、ブレードを損ねるからである。
このように、ECOWATの超純水は、ノルウェーの重要な環境目標達成に一役買うことになる。ノルウェーはGothenburg議定書に署名しており、窒素酸化物の排出量を2010年までに1990年比で29%削減することを約束している。
「われわれの目標は、2010年に沖合施設のタービンに水を供給できるようになることだ。この分野だけでも、10億ノルウェー・クローネ(約210億円)の市場がある」とTore Skjetneはいう。
なお、ECOWATの株式は、Viking Ventureが43%、SINTEF Ventureが40%、創立者のTore Skjetne自身が17%を保有している。