マサチューセッツ州の環境担当者ら、州議会で飲用水中薬物の調査強化を訴え

マサチューセッツ州の環境担当者らは2008年5月13日、州議会の特別公聴会で証言し、飲用水に微量に含まれる薬物の健康への影響について州も連邦政府もさらに調査を進める必要があると訴えた。環境担当者らはまた、そもそも水系に流れ込む薬物の量を――未使用の医薬品を水洗トイレで流して廃棄するのをやめさせるなどして――減らす努力を州がするべきだと主張した。古くなった処方薬を水洗トイレに流して廃棄する方法は、これまで長いあいだ、最もよい処分法として推奨されてきたものだ。

 

この特別公聴会は、アメリカの少なくとも4100万人が飲む水道水にきわめて多種の薬物が微量に含まれていることを明らかにしたAssociated Press(AP)の調査結果を踏まえて開催された。

 

証言に立った州環境保護局のLaurie Burt局長は、「これは、評価、健康リスク・アセスメント、および是正措置について国のリーダーシップを必要とする問題だが、だからといって、当州および他の州が手をこまねいていてよいということではない」と述べた。

薬物が水系に流れ込む経路としては、通常、投棄により直接はいり込むか、または人間や、獣医により投薬措置をほどこされた家畜の排泄により間接的にはいり込むかのふた通りがある。こうして流れ込んだ薬物は、そのすべての成分が下水処理プラントで完全に除去されるわけではなく、ごく微量が上水道にまでまぎれこんでくる。

 

こうした問題についてBurt局長は、マサチューセッツ州がすでに研究のためのいくつかのプログラムを開始していることを明らかにした。州環境保護局はマサチューセッツ大学アマースト校の研究者らと共同で、12種類の化合物について原水のサンプルを分析し、つぎに、公共上水道の殺菌に通常使われる化学薬品でそのサンプルを処理したのちにふたたび分析にかけ、処理の効果をたしかめるという実験を行なっている。

マサチューセッツ州はまた、アメリカ地質調査所による国家調査プロジェクトに協力し、Merrimack川など同州内の地表水からサンプルを採集し、数百種の化合物について分析することにしている。このプロジェクトではさらに、水中の薬物を追跡して水処理プロセスでそれら薬物がどう変化するかを調べることになっている。

また、環境保護局、公衆衛生局、マサチューセッツ水資源公団など、州の行政機関の幹部らは、2008年6月に「サミット」を開催して飲用水中の薬物の問題について検討するとしている。

州議会では環境債法案が審議中で、この法案には、水の薬物汚染に関するサンプル採集と分析についての州の体制強化を目的としてLawrence市に研究所を設置するための資金拠出が盛り込まれている。

 

Burt局長はまた、マサチューセッツ州が、未使用の処方薬を――薬物常用者による盗用を防ぐ意味もあってラベルをはがして密封してから――ゴミとして捨てるよう州民に強く呼びかけていることを明らかにした。同州はまた、未使用の医薬品を薬局が引き取って処分する「テイクバック」プログラムを創設することについても検討を進めている。

 

同じく証言に立ったハーヴァード大学公衆衛生学大学院の化学者James Shineは、この問題の全容を理解することの難しさを訴えた。医薬品には何千もの物質があり、そのなかには、きわめて微量でも生物学的に活性になるようにつくられたものがあるからである。いたずらに心配しなければならない理由はないものの、研究者や立法者はこれを無視することはできない、とShineは述べた。「こうしたリスクがあることを念頭に置く必要がある。つまり、長期にわたる低レベルの暴露がどういう影響をもたらすかということだ」

 

マサチューセッツ州公衆衛生局のSuzanne Condon局長補佐は、飲用水中の医薬品成分のレベルを低下させるために行動を起こす必要があることについて、すでに一般の合意が形成されていると証言した。その第1歩は、どの医薬品が最も有害で現在の水処理体制では最も防ぎにくいかを判断することだとして、Condon局長補佐は「上水道にはいり込むリスクの最も高い物質について集中的に調査する戦略が必要だ」と述べた。

 

いっぽう、製薬会社の業界団体であるアメリカ研究製薬工業協会(PhRMA)のLeslie Wood州政策担当理事は、飲用水に含まれる微量の医薬品が健康問題を引き起こしていることを示すものはなにもないとし、「飲用水中に医薬品が存在することによって明白な健康リスクが生じているとは思えない」と述べた。Wood理事はまた、製薬業界が、未使用の医薬品をゴミとして捨てるように消費者を誘導する啓蒙プログラムを開始したことを明らかにした。

 

この特別公聴会を催したマサチューセッツ州議会公衆衛生合同委員会の副委員長であるPeter Koutoujian州下院議員(民主党、Waltham選出)は、政策立案者らがこの問題につねに目を向けている必要があるとした上で、つぎのように述べた。「われわれは薬をのむとき、コップ1杯の水でそれを飲み下す。気がかりなのは、いまこうしてコップ1杯の水を飲むとき、ほかのひとの薬をのまされていることにならなければよいが、ということだ」