2007年の水不足をきっかけに、トルコで水資源に対する価値観に変化が生じている。水利行政においても本格的な梃入れが始まった。
環境省が特に力を入れているのは、国内の排水処理施設の増設だ。2006年の環境法改正に伴い、各自治体には施設拡充計画の策定が義務付けられており、計画実施にあたっては、住民数に応じて3年~10年期限が定められている。さらに、工業地区における実施期限は2009年5月までと、要件が一層厳しくなっている。
国内251の工業地区のうち、排水処理施設を有しているのは14%に過ぎない(2007年)。工場経営者によって維持管理されている排水処理施設は3,196件となっている。工場から排出される有毒、重金属含有廃水のうち適正処理されているのは22%程度と見られており、大部分は未処理のまま海洋や河川に放出されている。
現在、イスタンブール市のAtaköy地区では、2009年末完工予定で、国内最大規模の都市排水処理施設が建設されている。投資総額は約1億800万ユーロ(約293億円)。工事を請け負っているのは、オーストリアEVNの子会社であるWTE Wassertechnik社と、トルコの二つの建設会社からなるコンソーシアムである。WTE Wassertechnik社は完成後5年間の運営契約も獲得している。徹底的な窒素除去とスラッジ分解技術を用いて、市内約200万人分の都市排水を処理する。また、人口ではトルコ第3の都市であるイズミル市でも、投資総額は約2億500万ユーロ(約407億円)をかけて8件の排水処理施設建設が進行している。
一方、上水整備も重要な課題だ。2007年夏、トルコの都市圏では飲料水供給能力の限界を裏付ける事象が頻発した。アンカラ市では1日中水道が止まった地区もあった。今夏のダム貯水量も、降水量は少なくなかったにもかかわらず十分とは言えない。このため、国家水利庁(DSI)は現在、飲料水の代替水源開発工事に全力を注いでいる。
イスタンブール市では、急増する水需要に対応すべく、180km離れたメレン川から取水し市内に導水するための整備事業が始まっている。完成予定は2010年で、当初は年間2億6,800万立方メートル、最終的な供給量は日に11億8,000万立法メートルに達する予定だ。さらに同市では、海水淡水化処理プラントの建設計画も持ち上がっている。
アンカラ市でも、Kizilirmak川からの導水による飲料水供給が2008年春から開始している。しかし、水質検査でヒ素含有量が高いことが明らかになり、このプロジェクトへの批判が高まっている。現在、水質鑑定結果に関する情報は錯綜しており、首都の水道を流れる水を安心して飲むことができるのかどうかは明らかにされていない。いずれにせよ、水質汚染の原因は工業施設からの排水にあると見られており、上水設備と下水処理施設の密接な関連性が浮き彫りになっている。
また、イズミル市ではあらたに21件の地下水開発を進め、これにより市内の飲料水供給を24%アップできるとしている。