野村証券が海水淡水化市場の中東・北アフリカ地域への集中を予想

2010年4月、野村証券が世界の海水淡水化プラントの市場動向に関するレポートを発表した。それによると、世界の海水淡水化プラントの設備容量は2016年までに倍増し、とくに湾岸諸国や北アフリカの増加が多くなるという。この期間には、人口増加や天然の帯水層の枯渇に対応するため、世界中で1050億ドル(約9兆5500億円)が脱塩プラントに投資され、なかでも最大の市場になるのはサウジアラビア、UAE、米国で、その他の中東諸国がそれに続くと見ている。

「この市場は必然的に、気候条件によって地下水資源が限られている国や、脱塩コストを負担できる経済力のある国など、比較的少数の国に集中する。その結果、原油や天然ガスの生産によって成長しており、世界の既存の設備容量の半分を占めているMENA(中東・北アフリカ)地域が2016年までに予想される設備容量の伸びでも55パーセントを占めると予想される」野村のアナリストはそう書いている。同証券の計算によると、湾岸協力会議(GCC)諸国の設備容量だけでも2016年までに71パーセント増加し、1日当たり1920万立方メートル増加するという。同時期に予想されている世界の増加量の約3分の1に相当する量である。

UAEなど、安価な天然ガスが手に入る国は、他の国々とは違い、熱脱塩という比較的エネルギー集約度の高い技術を使用しつづけることも予想している。海水を加熱して蒸発させ、その蒸気を凝縮させて淡水化する熱脱塩プラントは、海水を目の細かいフィルタに通して塩分を取り除く逆浸透プラントより建設費がかかり、エネルギーも多く使用する。1日の処理能力1立方メートル当たりの建設費に換算すると、逆浸透プラントは1100ドル(約10万円)なのに対し、熱脱塩プラントは1250ドル(約11万4000円)である。ちなみに、サウジアラビアでは、同国の研究機関King Abdulaziz City for Science and TechnologyとIBMが共同で太陽エネルギーを利用して同国の平均より安いコストで淡水を生産する画期的なプラントの建設を計画しているが、このプラントでは、逆浸透の技術が使用されようとしている。

だが、中東では、天然ガスのコストが安く、熱脱塩の技術を従来の発電所と組み合わせるのが容易なため、この技術が依然として第一の選択肢でありつづける可能性が高い。この技術は、発電所の廃熱を利用するので、たとえ新たな水需要に対応する必要がなくても、発電所に装備しておいて損はない。国際的な計測・水管理会社Techemの地域統括責任者のHans Altmannも「脱塩設備のないただの発電所を作るのはもったいないのです。どうせ副産物ですから、利用しない手はないのです」と語っている。

野村のレポートは、低コストの天然ガスが入手可能であるかぎり、この地域における熱脱塩の技術の優位性は動かないだろうと予測している。「天然ガスのコストが高ければ、逆浸透がいちばん安上がりな技術になるが、安ければ、熱脱塩がいちばん安上がりになる。……天然ガスがふんだんにあり、安く手に入る中東において熱脱塩の技術が選択されていることが多いのは、ひとつには、このためである」

国際エネルギー機関(IEA)は、年次報告書「World Energy Outlook 2009(世界エネルギー展望2009)」の中で、中東では、長期的に、エネルギー集約度の高い脱塩が行われることによってエネルギー消費量が急激に増加すると警告している。「当機関の分析によると、2007年に2100万立方メートル/日だったMENA地域の脱塩設備の容量は、2030年までに1億1000万立方メートル/日近くに増大し、この地域でエネルギー消費の急増をもたらす。……2030年には、MENA地域の電力需要は2007年当時の3倍になり、122テラワット時に達するだろう」IEAの報告書はそう述べている。

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