2010年4月13日、欧州委員会はフランス競争庁と共同で、上下水道分野の複数のフランス企業に抜き打ちで立入捜査をおこなった。この捜査は、地方政府の上下水道管理サービス契約への入札にあたってこれら企業のあいだで「ヨーロッパ連合の機能に関する条約」(TEFU)第101条に違反する談合があったという容疑を裏づけるためにおこなわれた。欧州委員会はまた、上下水道管理サービスの提供にあたってこれら企業がTEFU第102条に違反して上下水道料金を不当に課した疑いがあるとしている。
欧州委員会によると、今回の抜き打ち捜査は数年を要するかもしれない捜査プロセスの第1歩にすぎないが、同時にこれは避けて通ることのできない捜査の予備段階にすぎず、かならずしも捜査が次の段階に進むことを意味しているわけではないという。欧州委員会は今回の捜査対象の企業名を公式には明らかにしていないが、そのなかにGDF Suez傘下のSuez EnvironmentとLyonnaise des Eaux、La Saur、およびVeolia Environment――すなわちこの分野におけるフランスの3大企業――が含まれているのではないかと噂されている。
フランスでは、上下水道サービスの提供は地方自治体の責任でおこなうことになっている。自治体、または中小自治体の組合は、上下水道サービスを入札による長期契約で民間企業に委託するケースが多い。Suez、Veolia、およびLa Saurという3大上下水道企業がフランス全土の市場の70%ないし80%を占めており、市場の競争原理がうまくはたらいていないばかりか、これら3大企業の合弁事業さえあるという批判の声がしばしばあがっていた。
上にも述べたように、抜き打ち捜査は、EUの競争法への違反があったことを直ちに意味するものではない。しかし、限られた資源しか持たないヨーロッパ委員会がその資源を振り向ける先を決める際には厳しい判断基準にもとづくはずだから、同委員会が今回の抜き打ち捜査を単なる当て推量でしたとは考えにくく、違反が実際にあったとの確たる証拠をすでに握っていると考えるのが妥当だろう。だが、委員会が異議告知書の送達に踏み切るまでは、抜き打ち捜査があったこと自体は、当事者はともかくとしてもそれ以外に何ら実質的な影響を生じるものではない。
このような捜査が、特にEUのレベルでおこなわれたのは、水ビジネスにとってははじめてのことである。水道事業の民営化に関してはイギリスが先行しているが、現在、国の指名による独占状態になっているところへ競争原理を持ち込もうとしている状況で、いっぽうヨーロッパの他の国ぐにでは水道事業は依然として官の手に握られている部分が多く、フランスなどのように民間への委託をおこなっている国もある。水道事業部門の構造を徹底的に見直さなければいけないというのは多くのひとが感じていたところで、今回の捜査は、欧州委員会がこの問題にかかわって将来の規制緩和の検討にリーダーシップを示そうとしていることのあらわれと見ることもできそうだ。