2010年5月3日、シンガポールに、同国で5件目、かつ過去最大規模となる水リサイクル施設“ニューウォーター・プラント(NEWater Plant)”がオープンする。日量5000万ガロンの処理能力があるこのプラントは、同国のセムコープ(Sembcorp)社が2008年1月に公益事業庁(PUB)より受注したものである。同プラントは、コンサルティング会社Frost & Sullivanが2020年までに現在の3倍の1兆3800億ドル(約125兆円)規模にまで膨れ上がると予測している水管理の市場でシンガポールの技術を誇示する格好のショーケースとなると見られている。
そもそも、シンガポールは、年平均の降水量が2000mmにも達し、雨水についていえば、それこそありあまるほどある国だが、生活用水はかつて敵対関係にあった隣国のマレーシアからの水に頼っていた。このため、1965年にマレーシア連邦から追放されるかたちで独立したときにも、建国の父リー・クアン・ユーが水の自給自足化を国の目標として掲げ、貯水池をつくり、廃水をリサイクルし、脱塩プラントを建設することで、輸入水への依存率を80パーセントから50パーセントに引き下げていた。今回完成したプラントがオープンすると、水のリサイクル率が30パーセントに達し、水ビジネスの業界団体、世界水協会(IWA)によると、そのリサイクル率は世界の主要都市の中で最高になるという。
かつては何の資源もなく、低賃金労働者ばかりがひしめき合う島だったのに、今ではStandard & Poor’sがアジアで唯一、その債務にAAAのランクをつけるところとなったこの国で水管理の技術の急速な発展をもたらしたのは、そんな歴史から来る国民の「水の自給自足」を目指す強い意欲と、それにひかれて集まってきた外国の大手電機メーカーの技術だった。
1989年、この島にHyflux Ltd.という会社ができた。ろ過膜のメーカーだ。国民の水の自給自足を目指す強い意欲にはぐくまれたこの会社が2005年に自社独自の脱塩プラントを建設すると、2007年には、ドイツのSiemensが3300万ドル(約30億円)を投じて研究所をつくり、2年後には、そこが同社で最大の水の研究所になった。
また、2008年には、HyfluxがアルジェリアのMactaanの脱塩プラントの入札でGeneral Electricを始めとする他社を負かして4億6800万ドル(約424億円)で世界最大規模のフィルタ式脱塩プラントの建設・運転契約を受注したが、2009年には、そのGeneral Electricの水ビジネス部門が1億800万ドル(約98億円)をかけてシンガポール国立大学と共同の研究所を開いた。この研究所も、2011年には70名の研究者を擁する規模になると見られており、急成長を遂げている。
シンガポールは水の自給自足を目指す政府の強いバックアップとGE、Siemensなどの電機メーカーの技術が結びついて巨大化する世界の水市場へ進出しようとしており、公益事業庁(PUB)によると、同国の企業は、過去3年間に15カ国以上の地域で100件以上のプロジェクトを受注しており、その総額は56億米ドル(約5100億円)に達するとのことである。