シンガポール、世界初の塩分変化対応型プラントの実用化に向けて開発を進める

下水を高品質な再生水(NEWater)へと変える造水技術を世界中に提供しているシンガポールでは、現在もう1つの世界初の技術となる、海水や汽水といった塩分の変化に対応可能な「塩分変化対応型プラント(VSP:Variable Salinity Plant)」の実用化が進められている。国内の水の管理を担っている公共事業庁(PUB:Public Utility Board)は、1滴の雨水も漏らさず利用しようと励んでおり、今後VSPによって、シンガポール国内のほぼ全ての地域が集水域となりうる。PUBの広報官であるSarah Hiong氏はVSPについて次のようなコメントを出している「VSPは世界初の技術を用いており、海水と汽水の両方から、安価で飲料水を造ることが可能である」

現地紙の報道によると、PUBはこれまでの試験の成功を受けて、同技術のさらなる開発を計画しており、新たなプラント建設地として、ジュロン島を含む8つの候補地を挙げている。また、PUBが、海岸近くを流れる小川の水を対象としていることもほのめかした、と同紙では報じられている。

新たなVSPの候補地は、4か所は国内の東部に、残りは西部に2か所、北西部に2か所となっている。そのうちの1つはジュロン島であり、1日当たり480万リットルの海水の処理、もしくは960万リットルの汽水の処理が可能となる予定である。

集水可能域が国土の約90%に拡大

これまでの貯水池の建設によって、現在シンガポール国土の3分の2に降る雨が集水されているが、PUBによると、非常に大量の水がいまだに小川に流出しているとのことである。しかし、汽水と海水の両方から飲料水を造る2重の機能を有するVSPを用いれば、シンガポール国土の約90%での降水が集水可能となる。

雨季と乾季でのVSPの運転モードの切り替え

降水量の多くなる雨季では、そのままでは最終的には海に流出してしまう雨水は、用水路内に設置された膨張式ゴム堰によってせき止められた後、VSPに輸送される。浄水過程では、まず100 μmよりも細かい粒子が除去され、次に逆浸透膜によって脱塩処理される。

一方乾季では、VSPは海水処理モードに切り替わる。190 m沖合から海水をポンプで汲み上げてVSPに送った後に、まずは海水用の逆浸透膜で処理し、次に汽水用の逆浸透膜を用いて塩分ゼロの水を造る。

VSPの試験運転実績と展望

PUBは2004年に、ベドック(Bedok)のNEWater施設において、VSPの試験運転を実施した。この試験の成功を受けて、2007年には、740万シンガポールドル(約4億6000万円)を投入して、スンガイタンピネス(Sungei Tampines)にて実演用プラントを建設した。その後5年にわたって同プラントは休むことなく、1日当たり910万リットルの雨水を処理してきたが、これはシンガポールでの1日の水消費量(14億リットル)のうち、約0.5%に相当する量である。

NEWaterと同様に、VSPで処理された水は飲料用として安全であり、かつWHOと米EPAの定めるそれぞれの水質基準を満たす、またはそれよりも優れている。しかし今のところVSPによる造水量は少ないため、現在は工業水用のNEWaterの供給量の増加分を補うために使用されている。今後の用途についてHiong氏は、国内の水需要量の55%は工業用水であることに言及しながら、NEWaterは主に工業分野に供給し、一方VSPは、家庭むけの飲料水として供給していく、と述べた。

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