SUTD、MITなどの国際研究者チーム、プラズマ処理カーボンナノチューブを利用した優れた塩分除去機能を有する浄水器用ろ過膜を開発

2013年8月13日、オンラインジャーナルのNature Communicationsに、プラズマ処理された超長尺カーボンナノチューブを用いた膜ろ過法の開発により、優れた海水淡水化、除菌、およびろ過性能を備えたポイント・オブ・ユース(POU)浄水器*1の実現をもたらす可能性を示す論文が発表された*2

このプロジェクトを手掛けるのはシンガポール工科・デザイン大学(SUTD)のHui Ying Yang准教授、マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科のRohit Karnik氏が率いる国際的な研究者チームである。チームにはオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)が有する世界屈指のプラズマ・ナノサイエンス研究所から、Zhaojun Han氏、Kostya (Ken) Ostrikov教授も参加している。

従来の活性炭ベースの手法に比して2桁高い塩分吸着能

論文によれば、プラズマ処理された超長尺カーボンナノチューブは塩分に極めて高い特異的吸着能を示し、その吸着能は重量比で400%を超えるという。これは現在最先端の活性炭ベースの水処理システムに比べて2桁大きい数字である。Ostrikov教授は、この新たな膜の成功は、プラズマ処理したカーボンナノチューブが持つユニークな特性によるものとし、この特性を「第一に、超長尺ナノチューブはろ過に用いるには理想的な、極めて大きな表面積を有すること。さらに、ナノチューブは修飾が容易であり、ナノスケールでの局所的なプラズマ処理により表面特性の調整が可能であること」と説明した。

Han氏は小規模な飲用向け浄水器がすでに存在することは認めている。しかし、それらは逆浸透プロセスや熱式プロセスを採用していることから、塩分の除去は可能であるものの、特定の河川や湖沼に見られる塩水から有機不純物を取り除くことはできなかった。Han氏によれば、今回プロジェクトで開発された膜は、ティーポット程度の大きさの飲用向け浄水器に組み込むことができ、再充填可能かつ安価で、さらに多くの既存のろ過手法よりも高効率であるという。今回当該手法の有効性を証明した研究者チームは、この研究を他のナノ材料にまで拡大することを計画しており、まずは、カーボンナノチューブに似た特性をもち、さらに高密度・高強度に製造可能であるグラフェン*3から取りかかるという。

*1 浄水を必要とする時点・場所において原水を投入し使用する浄水器。家庭用や携帯型の浄水器はこれに含まれる。*2 Hui Ying Yang, et al., 2013: Carbon nanotube membranes with ultrahigh specific adsorption capacity for water desalination and purification, Nature Communications, doi:10.1038/ncomms3220
http://www.nature.com/ncomms/2013/130813/ncomms3220/full/ncomms3220.html
*3 炭素原子が結合してできた、厚さが炭素原子1個分のシート。非常に強靱で導電性に富む材料として各方面で研究が進められている。

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