チリの下院に、鉱石採掘に海水淡水化で得た脱塩水の使用を義務づける法案が提出された。この法案は、大量の水が鉱山で使われることによる地元コミュニティへの水供給量の減少を防ぐと同時に、増加をつづける鉱山業界の水需要に対処することを意図したものである。
法案を提出した下院議員らが発表した報道向け資料によると、この法案が成立すれば、毎秒150リットルを超える水を消費する採掘業者には、海水淡水化による脱塩水の利用を操業プロセスに組み込むことが義務づけられるという。
これについて、鉱山業界のある企業幹部は、匿名を条件にこう語っている。「世界で最も乾燥した地帯であるアタカマ州のコミュニティは、水を鉱山会社と取り合っていると感じることがしばしばある。・・・政治家は貧しいひとびとのために闘うと言っている手前、こうした事態に手をこまねいているわけにはいかないのだ」
最大の問題はコスト
BHP傘下のEscondidaや、Freeport-McMoran傘下のEl Abra、それに国営の巨大な銅鉱山会社Codelcoの一部門であるRadomiro TomicとChuquicamataなど、淡水化プラントをすでに導入済みの鉱山会社もいくつかある。
問題は、チリでは近年、淡水化のコストが高騰し、アメリカの2倍にまで跳ね上がったことだ。海水を完全に淡水化するコストは、アメリカでは1m3あたり2.3ドル(約240円)、メキシコでは同2.8ドル(約290円)だが、これがチリでは5ドル(約520円)にもなるという。このことが、チリの鉱業のエネルギー・コストを全生産コストの14%――生産される金属1ポンドにつき27セント(約28円)に相当――にまで押し上げている。チリの鉱業のこのエネルギー・コストは、2000年以来の最高レベルに達している。
鉱業はチリ経済の柱
現行法のもとでは、鉱山会社は事業を進める過程でみつけた水資源を自由に使ってよいことになっている。しかし、特にほとんどの鉱山が集中しているチリ北部の乾燥地帯で水不足がますます深刻になってくるにつれて、1973年から1990年までのアウグスト・ピノチェト軍事政権下でできた水資源関連の法規を見直す動きが政府や議会のなかで出てきた。
大量の水を使う鉱業はチリ経済の主要な柱のひとつで、銅の輸出が政府の収入源の3分の1を占めているほどである。
2013年12月にチリの鉱物資源省・銅開発委員会(COCHILCO)研究局が出した報告書「2013-2021年の銅鉱山開発における淡水需要見通し(Proyección de demanda de agua fresca en la minería del cobre, 2013-2021)」 によると、チリでは、2021年までに鉱山開発プロジェクトへの投資が1125億ドル(約11兆4750億円)見込まれている。そのうち900億ドル(約9兆1800億円)が2013年から2017年に予定されているが、これらの大型投資推進の為には、関連するエネルギー、水資源、人的資源の問題を考慮する必要があるという。
2021年に向けては、既存の鉱山の拡張よりも、新規鉱山開発プロジェクトが増える見込みであり、このため新しい技術やスキームによる新規淡水化プロジェクトが参入しやすいであろう点が、報告書では指摘されている。
今回提出された海水淡水化を義務付ける法案も相まって、チリの鉱山開発分野での海水淡水化市場はさらに注目を集めることとなるだろう。なお、チリでは現在5ヶ所の銅鉱山で淡水化プラントが稼動しているが、更に1ヶ所が2014年から、3ヶ所が2015年から、2ヶ所が2017年から、2ヶ所が2018年から、2ヶ所が2019年から稼動予定となっている。海水淡水化プロジェクトへの投資金額は54億ドル(約5508億円)が見込まれている。
プロジェクト | 稼動開始年 | 地域 | 種類 |
---|---|---|---|
Pampa Camarones | 2014 | Parinacota | 新規 |
Sierra Gorda | 2015 | Antofagasta | 新規 |
Antucoya | 2015 | Antofagasta | 新規 |
Diego de Almagro | 2015 | Atacama | 新規 |
Santo Domingo | 2017 | Atacama | 新規 |
Escondida OGP1 | 2017 | Antofagasta | 拡張 |
El Morro | 2018 | Atacama | 新規 |
RT Sulfuros II | 2018 | Antofagasta | 新規 |
Q. Blanca Fase 2 | 2019 | Tarapacá | 新規 |
Relincho | 2019 | Atacama | 新規 |
表 2014年以降に稼働予定の海水淡水化プロジェクト
(出典:Proyección de demanda de agua fresca en la minería del cobre, 2013-2021)
近年の海水利用プロジェクトや節水技術、プロセスにおける水の再利用などが鉱山開発会社により導入され、水資源利用の効率化が図られている。チリの基幹産業である鉱山資源開発の更なる成長に向けての適切な政策策定の為、今後の鉱山開発における水の需要量見通しを把握しておく事を目的として、本報告書は作成された。なお報告書のなかでは、2021年までに銅鉱山で必要とされる地表水からの淡水の需要は最大27.7 m3/秒に達すると予測されている。
地域別にみると、チリの銅鉱山はアタカマ州やアントファガスタ州を中心とした乾燥気候の北部に集中している。主要産地はアントファガスタ州であるが、銅の同時生産物(co-produto) である金鉱の開発プロジェクトの増加により、砂漠地帯であるアタカマ州での水使用量の大幅増加が見込まれている。
図 地域別の地表水からの淡水需要予測
(出典:Proyección de demanda de agua fresca en la minería del cobre, 2013-2021)