グラフェンの酸化シートをかさねて柱状の分子でつなぎ合わせ、グラフェン酸化物構造体(GOF)とすることで、性能の調整が可能な淡水化用膜として使えることが、コンピュータ・シミュレーションによる研究でわかってきた。*
* Adrien Nicolaï et. al., 2014: Tunable water desalination across graphene oxide framework membranes,Physical Chemistry Chemical Physics, doi: 10.1039/C4CP01051E
http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2014/cp/c4cp01051e/unauth#!divAbstract
この研究をおこなっているのはアメリカのオークリッジ国立研究所(ORNL)とレンセラー工科大学(PRI)の共同研究チームで、彼らはGOFをどこまで理想的なものに近づけることができるかを、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションによって研究している。
ORNL内のナノマテリアル理論研究所で所長を務めるBobby G. Sumpter博士はまず、GOFを構成する原子間の相互作用を記述するコンピュータ・モデルを開発し、つぎに、PRIのVincent Meunier教授およびAdrien Nicolai博士とともに、淡水化用のGOF膜の理想的な構成の計算にとりかかった。彼らは高性能のコンピュータを使い、膜厚、シートをつなぎ合せる柱状構造(リンカー)の密度、および加圧力によってGOF膜の性能がどのように変わるかをシミュレートした。
その結果、GOF膜の構造を微調整することで、塩水中のすべてのイオンを、現在使われている逆浸透膜よりもずっと速く――およそ100倍のスピードで――除去できることがわかった。多孔膜の材料として使っているグラフェンに撥水性があるため、水は透過チャネルに圧し込まれ、それによって膜の性能が向上する。
リンカー密度、膜厚、加圧力の関数としての透水性と脱塩率
GOF膜の透水性と脱塩率の兼ね合いを、リンカー密度n、膜厚h、および加圧力ΔPの関数としてシミュレーションで調べたところ、GOF-(n,h)膜の透水性は5リットル/cm2dayMPa(n=32、h=6.5 nm)から400リットル/cm2dayMPa(n=64、h=2.5 nm)まで調整可能であり、Cnh-αnの法則にしたがうことがわかった。
また、孔の大きさを一定にした場合(n=16または32)、GOF膜の透水性は孔の間隔が小さいほど大きくなる。いっぽう、孔の間隔を一定にした場合(n=32または64)、透水性は孔の大きさの増加にしたがって最大2桁まで大きくなる。
さらに、リンカー密度が32以下(n≦32)の場合、高い透水性が脱塩率100%に対応し、このタイプのGOF膜が淡水化用として理想の候補であることがわかる。
論文の著者らはORNLのウェブサイトで、GOF膜はイオンのほかにバクテリアなどの汚染物を濾過するのにも使えると述べている。著者らはまた、GOFは豊富で安価な材料から標準的な製法でつくることができるので、GOFベースの膜は淡水化をより経済的なものにするのに役立つ可能性があると考えている。