EUの政策執行機関である欧州委員会は2014年3月19日、水への権利の認知を求めて190万人が欧州市民イニシアチブ(ECI)を通しておこなった請願に応え、きれいな水へのアクセスをEU全域にわたって改善することを確約した。
欧州市民イニシアチブ(ECI)
EUの基本条約を修正するリスボン条約にもとづいてECIが発足したのは2012年4月1日のことだった。ECIは、一定の数のEU加盟国から計100万人の署名を集めることにより、市民が欧州委員会に対して新たな立法を求めることができる制度である。
欧州委員会の推計では、安全な飲み水と衛生設備を日常生活で利用できない人の数はEU域内で2000万人にのぼるという。
こうしたことへの法的な対処を一般の欧州市民がEUの政治に要求することのできる初めての仕組みがECIであり、また、ECIを通して表明される市民の声は、2014年5月に予定されている欧州議会選挙に多くのひとびとが何を期待しているのかを知るためのまたとない機会でもある。
公共水道事業売却の動きが引き金
ECIを通したこの請願運動――Right2Waterと呼ばれている――は、ドイツからポルトガルにかけての、公共水道事業の売却に反対する世論のうねりを背景としている。ひとびとは、水道事業の売却が進めば水道料金が上がり、それを支払えない場合は給水を断たれるのではないかと心配している。
今回のEUの決定について、欧州委員会のマロシュ・シェフチョヴィチ副委員長は2014年3月19日にこう語った。「欧州の人々が声をあげ、委員会はきょう、それに前向きな答を出した。水質、水インフラ、衛生設備、それに透明性、これらすべてがよくなる……これは、市民によるデモクラシーの全欧州規模における最初の発露ともいえるこの請願運動がもたらした直接の成果だ」
今回のECIの請願運動が成功した裏には、各署名者にパスポート番号の記入を求めるという手法があったことも見逃せない。この方法は、胎児の保護対策を求める運動など、他の請願運動にも波及しそうだ。
人権としての水への権利を求めるRight2Water
28ヵ国が加盟するEUにおいて法案を策定する立場にある欧州委員会は、今回の件で法改正について一般からの意見をよく聞くとしている。しかし、Right2Water運動の側は、委員会の反応が遅いとして不満を漏らしている。
Right2Water事務局のJan Willem Goudriaan副委員長はこう述べている。「欧州委員会の動きには気概がまったく感じられない。法の改正に向けて動いているといっても、水への権利を人権としてとらえた提案がひとつもないことにがっかりしている」
水道事業の民営化に反対
2013年の終わりにRight2Waterは、この権利をEUの法律で大切に守らなければならないこと、また、水の供給は民間企業ではなく公的な機関がしなければならないことを訴える内容の請願をおこなった。
集まった署名のうち半数以上がドイツ人のもので、これには、あるコメディアンが水道の民営化に反対する意見をテレビ番組で披露したことが後押しとなっている。コメディアンのこの発言は、自治体の所有する水道会社を売却することへの国民の懸念を反映したものだ。
欧州議会で緑の党に属するGerald Häfner議員も欧州委員会の計画に批判的で、どのようなステップを踏むのかの概略を示すべきだとして、つぎのように述べている。「委員会の回答はあいまいだ。すみやかに具体的な提案がなされなければならない」
ECIの仕組み
ECIは、立法をEUの5億人のひとびとにとって身近なものにするための制度で、加盟国のうちすくなくとも7ヵ国から100万人以上の署名を集めることが立法の提案の条件となっている。ただし、それによって新たな法律ができることが保証されているわけではない。
なかには、欧州市民の共通のアイデンティティを強化するのに役立つはずだからEUのいわば国歌にあたる『欧州の歌』を人工の共通言語であるエスペラントで歌うようにしようなどという提案もあり、これははじめから拒否された。