下水や工業廃水の浄化に際して精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)を利用した「膜分離活性汚泥法(MBR)」に注目が集められているものの、高コストを理由に新興国での導入は進んでいない。中国もそのひとつであったが、最近になってこのMBRの普及の兆しが見えてきている。
汚水廃液処理は化学工業企業が抱える難題であるが、杭州深瑞水務有限会社(以下、深瑞水務)はMBR技術を用いてその課題の解決に取り組んでいる。MBR技術によって、廃水を処理すると同時に、その廃棄物を利用価値のあるものに変えることができる。深瑞水務の関係者によると、除草剤として使用される「グリホサート(glyphosate)」を製造しているある化学企業は、2013年にMBR技術を導入したことで、廃水処理工程において毎年数千万人民元のコスト削減に成功したという。
現状、MBR技術は中国では普及していない
深瑞水務の伍立波代表取締役によると、MBR技術は現在のところ中国では普及していないが、その理由は多くの企業がMBR技術について認知していないからだという。国信証券のデータによると、現在のMBR技術の利用率は、生活廃水・公共施設廃水処理および工業廃水処理の分野で、それぞれわずかに1.52%と0.28%である。
浙江工業大学海洋学院の張国亮副院長の話では、MBR技術は一部の都市で新規に開発された大型廃水処理プロジェクトで利用されているものの、化学工業分野では未だに普及が進んでいない。MBR技術への興味を高まりつつあるが、費用が高いために利用できないとあきらめた化学工業企業もあるという。
旭化成離膜装置会社(以下、旭化成)は液体分離膜の研究・製造を行っている企業であるが、同社が6、7年前に杭州市に拠点を開いた当時は中国国内の膜製造企業の数は少数であった。しかし、この数年の間に同業種の企業は徐々に増えてきた。旭化成の技術者によると、MBR技術は欧米諸国では普及率は高く、ドイツでは90%の新規汚水処理プロジェクトでその技術が利用されているという。しかし中国では従来の生物化学処理による汚水処理がまだ主流である。
現在、杭州市には数千社の工業企業があり、杭州市環境保護局はそれら企業の汚染排出に対して、一定の汚染排出権の指標を割り当てている。企業は化学薬剤で中和、沈殿させることによって排出標準を満たした状態で排水する。仮に汚染排出指標が足りない場合は、それを購入することができる。杭州市では2009年からこの汚染排出権の取引が開始されたが、その取引額は7900万人民元(約13億3000万円)を超えている。多くの企業がお金を出して汚染排出権を購入する一方で、MBRなどに代表される先進技術を用いた汚染処理を行おうとしていない。
このような現状について深瑞水務の伍氏は、高額な初期投入費用に対する利用者の負担を軽減するために、企業と深瑞水務で費用を分担するというビジネスモデルを取っている。これにより、政府および多くの化学工業がMBR技術に対して認知することを望んでいるのだ。
MBR技術のコストは最近10年間で80%低下、将来の普及可能性も
現段階ではMBRの普及率は低いが、銀江環保の葉偉武代表取締役はその技術の発展動向に期待を抱いている。葉氏は、MBR技術を導入する新規プロジェクトが増加している主な要因として、ここ数年間でのコストの低下を挙げている。以前までは分離膜などはほぼ輸入されていたが、国内技術の向上のおかげでMBR技術による汚水処理コストは5年前の1トン当たり1~2万人民元から、現在は1トン当たり4000~5000人民元まで低下しているという。
また上述した浙江工業大学海洋学院の張氏も同様に、中国におけるMBR技術の将来について期待を寄せている。張氏によると、最近10年間でMBR技術のコストは80%低下し、杭州市だけで300~400社の関連企業があるという。